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気仙沼南郷地区、旧南気仙沼小学校跡地に建設される災害公営住宅 |
ザーリャです。
新しく生まれるまちに、新しく生まれるコミュニティ。それをいかにつくりあげていくのか。
宮城県社会福祉協議会では、亘理町と気仙沼市をモデル地域として、新しいコミュニティづくりの支援を行っています。
その取り組みについては、ココロプレスでも継続してご紹介してきました。
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2014年6月25日 水曜日
『ともに助け合う風土』をつくればいい(仙台市、気仙沼市、亘理町)
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2014年7月17日 木曜日
新しいコミュニティに向けて、「座談会」が始まる(仙台市、亘理町)
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県のHPでは、災害復興住宅の整備進捗状況を知ることができます。
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宮城県 復興住宅整備室
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去る9月30日、新しい災害復興住宅の建設が進む気仙沼市南郷地区で、受け入れ先の住民の皆さんによる、初めての勉強会が開催されました。
平成27年の3月の完成を目指して、作業は夜遅くにも及んでいます。 |
会場となったのは、災害復興住宅に隣り合う民家の一室。窓越しには、建設現場を見ることができます。
会場には地域住民の皆さん22人の他、中央自治連会長、西地区社会福祉協議会正副会長、南郷一区自治会役員、南郷二区自治会長、宮城県社会福祉協議会、気仙沼市社会福祉協議会の皆さんも集まりました。
受け入れ先住民の勉強会としては、南郷地区では今回が初めての開催です。
地域住民の皆さんが準備を進め、地元の気仙沼市社会福祉協議会と宮城県社会福祉協議会がサポートに当たりました。
今回の勉強会のテーマは、「地域を知ることからコミュニティを考える」。
受け入れ先住民の皆さんが、まずは最初のステップとして、自分たちが住む南郷地区を、さまざまな視点から見つめ直すのが目的です。
初めに、「過去の災害地から何を学ぶのか」と題して、宮城県社会福祉協議会復興支援福祉アドバイザーである本間照雄さんの講話がありました。
被災地での集団移転が行われ、災害復興住宅が建設された先行事例として、発生から20年が経過した北海道南西沖地震(1993)と阪神淡路大震災(1995)、10年が経過した新潟県中越地震(2004)を取り上げ、浮かび上がった現在の課題を紹介しました。
本間さんによれば、住民同士のつながりが無く、コミュニティ意識が希薄な復興住宅では、現在も高齢者の「引きこもり」や「孤独死」が問題になっているそうです。
「新しく建設される復興住宅では、これまでの仮設住宅とは異なり、住む人々のプライバシーが守られます。それは同時に、隣人との関係やコミュニティとのつながりが希薄になる原因でもあります。新しい復興住宅では、住民同士の見守りと公的見守りが伴走する、『双方向』からの支援の仕組みが必要です」
地域コミュニティづくりとは、「ほんの少しの『わずらわしさ』を共有すことと、自分の住む地域に誇りと愛着(価値)を持つことが重要である」と本間さんは話します。
昼食で親睦を深めた午後。「地域を知ることからコミュニティを考える」ためのワークショップが開かれました。
住民の皆さんは3つのグループに分かれ、南郷地区の「社会資源」について意見を交わしました。物質的な資源だけではなく、文化、習慣、歴史などについても、目を向けて考えます。
考えるのは、「住む」、「費やす」、「働く」、「育てる」、「学ぶ」、「交流する」、「癒す」、「遊ぶ」という8項目。お互いがざっくばらんに意見を交わしました。
地域の皆さんが住む南郷地区。その「良いところ」(強み)や「少し残念なところ」(弱み)について語り合い、これまで以上に自分の街(地域)が好きになり自慢できる部分を探します。
「交流の場を作っても、なかなか地域の人々が集まらなくなってきています」
「老人クラブも同じです。声掛けしても、来る人は決まっていますね」
「昔は当番でごみ集積所の清掃をしていましたが、それも今は無くなりました」
初めは緊張した雰囲気だった会場も、時間が経つにつれて、柔らかな雰囲気になっていきました。
「南郷地区は平地にあるから、高齢者でも移動はしやすいですね」
「新しく入居される方々の顔がまだ見えないので、まだイメージが湧きません」
「地盤沈下の影響で、大雨が降ると、渋抜川(しぶぬきがわ)の水があふれる状況が続いています。不安です」
「少し前までは、8項目の全てがそろっていた町でしたね」
「そうそう、買い物をするところ、学校、病院、仕事をする場所、ぜんぶが南郷地区にありました」
「でも、昔から便利だった分だけ、いろいろなところが古くなってきています」
「震災後は状況も変わりましたね。子どもたちが行く学校もバラバラ。隣同士でも学校が違うから、一緒に遊ばなくなりましたね。これは何とかしないとね」
「最近は若い人の仕事場が無いから、みんな町を出て行きます」
話し合いが続く会場の窓からも、建設中の復興住宅が見えています。工事の音が、絶え間なく響きます。
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建設されているのは、6階建てが2棟、10階建てが1棟です。 復興住宅は緊急時の近隣住民の避難場所にもなります |
復興住宅の受け入れ先である南郷1区は、約300世帯。そこに新たに160世帯が移り住むことになります。気仙沼市では復興住宅を新たな行政区として設定する方針を明らかにしています。
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完成予定図。来年の1月から、段階的な入居が始まります。 |
「町内会などは、ちょっとした煩わしさがあるからね。そう思って入ってくれるといいんだけど、『役職をやらされるのが嫌だ』といって、若い人は入らないねぇ」
「震災後に学校が遠くなって、バスで通う子もいます」
「夏は花火が見えてね、春は桜がきれいだったね」
発言は項目別に記録されていきました。今後のまちづくりに活かされる大切な資料になります。
約1時間にわたった話し合いの後、それぞれの項目に10点満点で点数がつけられました。
最後に、それぞれのグループの代表が、話し合いで出された意見について発表を行いました。
「『住む』について。病院、スーパー、生活環境が近く、環境が良い」
「地域の『弱み』として、雨が降ると水が溜まる、津波に弱い」
「『費やす』では、浜街道沿いには商店もあり、生活するのに便利」
「『働く』について。大きな会社はないが、さまざまな会社があるので、パートやアルバイトなら働く場はある」
「既存の住民のコミュニティそのものも希薄になっている」
「復興住宅の周辺の道路は以前のままのため、交通渋滞や安全の心配がある」
「『働く』、若者がUターン就職しようにも、専門性を活かせる企業が無く、また企業誘致できるような場所もない」
「PTAや自治会に参加する人が少なくなっている。若い人だけではなく、老人クラブも同様。15区の地域に回覧板を回しているが、参加者が誰もいない区もある」
各班でつけられた各項目をグラフ化し、本間さんが解説を行いました。
「各班で出された結果には、たとえば、『育てる』の項目の点数が低いなど、共通している部分が多く見られます」
本間さんは、今回のような地域についての共通認識を確認することは、今後の話し合いの基礎になる重要な部分だと言います。
「今回の結果は、全体としての地域づくりを考える際の、いわば出発点になります。『このあたりから』という話ができれば、そこから議論を広げていくことができるのです」
ワークショップの終了後、気仙沼市南郷一区の自治会長伊藤征吉さんは次のように話しました。
「今回の勉強会は、私たち自身のコミュニティの問題を考えました。これは、今後の新たなまちづくりに大いに参考になります。今日の話し合いを、出席できなかった住民とも何とか共有したいと思っています。実は新しい復興住宅に入居される方々の3割は、もともと南郷地区にお住まいだった方々です。私たちも、心から受け入れたいと思っています」
受け入れ先住民の皆さんは、今後も勉強会の場を設ける予定だと言います。また、こういった取り組みに並行して、入居者皆さんによる話し合いも進んでいます。
「自分たちでできることが、実はたくさんあるのかもしれないねぇ」
参加者の方々が解散していく中で、そんな話をしているのが聞こえてきました。
気仙沼で、今までになかった新しいまちづくりが進んでいます。
(取材日 平成26年9月30日)