荒浜の風物詩の「キノコ狩り」が行われた深い松林は、 津波によってほぼすべてが失われました |
今回の公開討論会の会場は、テーマとなる荒浜の現地。
貴田喜一さんの敷地の一角には、真新しいコンクリート基礎が打たれていました。その上に、夏の日差しを防ぐためのテントと、参加者用の椅子が並べられていました。
開催されたのは「荒浜アカデミア」。現地再生を願う住民グループ「荒浜再生を願う会」と、それを支援する有識者等によって開かれる公開討論会です。
ココロプレスでは、その模様をご紹介しています。
2014年8月30日土曜日
真新しい基礎の上で、現地再生の議論が交わされました |
今回のアカデミアの会場を提供したのは「荒浜再生を願う会」代表の貴田喜一さん。会員と共に、貞山運河や深沼海水浴場などの清掃活動を続けてきました。
「自宅の跡地に、新しい事務所の建築許可を得ることができました。震災以前の事業を継続し、事務所として使用するという
条件でです」
![]() |
「人がここに戻るための、産業を興したい」と語る、貴田喜一さん |
貴田さんは新築する事務所に活動拠点を構え、新たな地域の産業おこしを始めようとしています。
描くのは、原材料の生産から加工までを行う、農業の6次産業化を中心とした現地の再生プランです。
「震災から3年4カ月が過ぎ、その間も現地再建を目指して頑張ってきました。しかし現状は厳しく、私の代では荒浜に
『住む』ことは難しいと感じています。それならば、住まいは集団移転の場所に、そして、産業は現地の荒浜で興すほか
ありません」
他の選択肢がない、悩みながらの決断を、貴田さんは振り返りました。
荒浜地区が災害危険区域から除外されることが一番望ましい。しかし、それが難しいのであれば、せめて次の世代が荒浜に戻れるように準備を進めたい。貴田さんはそう考えています。
「そのための『産業おこし』を、まずは自分から広げていきたいのです」
個人の再建を越えた、荒浜地区全体の街づくり。産業が興れば、人が集まる。そして人が集まることで、状況が変わるかもしれない。貴田さんは、そのための準備を行っています。
「今は黒にんにくなどの農作物を生産しています。収穫した野菜を加工して、販売したい。現在は計画段階ですが、私たちが直接販売できる商品を開発したいと思っています」
「荒浜再生を願う会」では、農業の6次産業化の推進とともに、地区全体を『記録』と人が集まる『図書館』に見立てた『浜辺の図書館』の構想や、貞山運河をきれいにして『川で遊ぶ』など、交流人口を増やすプロジェクトも検討しています。
![]() |
多くの専門家から、喫緊の課題へのアドバイスがありました |
現地での取り組みの紹介後、集まった専門家からもさまざまな意見やアドバイスがありました。
「現地で開催された今回のアカデミアでは、参加者の皆さんも一人一人が触発されて、今までにない方向性を感じたのではないかと思います」
アカデミアの閉会にあたって、延藤安弘さん(NPO法人まちの縁側育くみ隊)が今回のまとめを行いました。
![]() |
総評として、今回の「まとめ」を話す延藤安弘さん |
1. ワタリガニも赤貝も、青空もいなさもみんな生きる仲間。
「佐藤優子さんの話にあった言葉です。住んでいた人たちの気持、風の心地よさ、
それらがすべてつながっている場所、それが荒浜なのだという魅力を感じました」
2. 楽しくて仕方ない、松茸狩りやお祭りのあるコミュニティ。
「荒浜の紹介をした中島敏さんのお話にあった、駄菓子屋や神社の縁日、季節の味を楽しむキノコ狩り。これらは荒浜の
コミュニティの誇るべき宝です」
3. 真に心がほっとする場所に住むことは、ニーズであり人権である。
「佐藤優子さんは仮設住宅に住むようになって、荒浜がどれほど良い場所であったかに気が付いた、そう話しました。
住民が『望む場所に住む』ということは、人権であり、ニーズです」
4. NO、住居!YES、産業!を起こそう!
「貴田さんは、産業を興して、荒浜の再生へつなげようとしています」
5. 考えるべき津波に考える減災策、地区防災づくりへ。
「住民の皆さんが自ら津波減災策を考えて、政策提言を行う。より能動的に未来に対するプランニングを行うこと大切です」
6. 絵のような敷地の花の縁取り、貝の縁取りは、再建設への強い意思表示である。
「佐藤優子さんの敷地境界に植えられた花々や、敷き並べられた貝殻は、住まう事への意思の表明です」
7. るる荒浜の暮らし方を次世代へ伝えよう。
「数世代後の世代に、私たちの荒浜の暮らし方の魅力を伝えよう」
8. 図書館や「6次産業」や、ボランティアツーリズムで若者を巻き込もう。
9. 困りごとも思いも市民間で分かち合うには。
「共感を広めるにはどうしたらいいのか。情報発信など、今後の課題が分かりました」
10. 論も大切。行動はもっと大切。
「私たちは行動によって、『思い』を『形』にします。議論を重ね、ロジカルな筋道だった方策を構築して、アクションを起こす。『行動すること』はもっと大切です。」
延藤さんのまとめた1から10の言葉の頭文字をならべると・・・
「わ、た、し、の、か、え、る、と、こ、ろ。(私の帰る所)」
「今回のアカデミアでは、現地での再建を望む皆さんに、その現地で話を聞くことができました。皆さんの再建に対する強い思いをもらったと感じています。『私の帰る所は荒浜である』。その思いを形にするために、これからも議論を積み重ねていくことが重要です」
延藤さんは、今回のアカデミアの感想をそう語りました。