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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年12月23日月曜日

2013年12月23日月曜日15:17
「自転車が欲しいんです」

東日本大震災の直後、被災地に行って何か必要な物はないかと尋ねると要望が多かった自転車。
自転車があれば、支援物資をもらいに行ったり運んだりする時や、遠くにしかないお店に買い物に行く時に助かる。
自転車があれば子どもの送迎ができる。
その気持ちが分かるのは、同じ子どもを持つお母さんでした。

こんにちはエムです。


これは、仙台市の向山幼稚園に通う子どものお母さん有志が立ち上げた小さな支援活動グループ「仙台チャリティバック」が起こした奇跡のようなお話です。


サイズも豊富な子供用のTシャツ

平成23年、震災直後に立ち上げた「仙台チャリティバック」は、中心となっているスタッフは7名の小さなグループですが、実際に今まで被災地に贈った自転車の数は52台。
それは全て、オリジナルのチャリティアイテムの売り上げで購入した新品の自転車です。

チャリティアイテムといっても、「Tシャツ」「エコバック」の2種類。このアイテムだけで売り上げ総数2,500点は驚きです。サイズや色は豊富ですが、震災関連のグッズがあふれていた中、これだけの実績を残せたのには何か特別な方法があったのでしょうか。

震災後、多くの人は自分にできる支援をしたいと考え、実際に本当にたくさんの方が被災地に足を運んでボランティア活動をし、復興に大きな力を貸してくださいました。今でも活動を続けている人もいます。その力は大きく、あちらこちらで感謝の声が絶えません。
しかし中には、ボランティアには行けないけど、何かしたいと考えている人もまた、たくさんいたのです。

「仙台チャリティバック」代表の丸田智子さんもそんな1人。
震災後、実家のある横浜に一時帰省していたときも、教会学校で働く丸田さんの妹さんが「NPO法人ラブネイバーズ」(※現在東日本大震災への支援活動は休止中)の一員として支援物資を被災地に届ける活動をしていました。丸田さんもその手伝いをする中で、自分のような小さな子どもを持つお母さんが、仙台でできる支援とは何だろうと考え始めました。


始まった当初は生成りの大・小のエコバックのみでしたが
現在、紺色の大きなバック、赤い小さなバックが増えました

 震災1カ月後の4月、仙台に戻った丸田さんは、同じ幼稚園のママ友である毛利花恵さん、伊藤奈美さん、佐藤日出子さんに相談しました。
「私たちはまず幼稚園に協力をお願いし、幼稚園の保護者宛ての手紙で支援物資の提供を呼び掛けました」

集まった支援物資を、当時石巻を拠点に支援活動をしていた「ラブネイバーズ」まで届けながら、ボランティア活動にも参加した丸田さんと佐藤さんは被災地の現状を目の当たりにしました。その時、「ラブネイバーズ」が現地で集めた “欲しいものリスト” の中に多くの「自転車」を見つけた丸田さんたち。
当時、支援物資として中古の自転車は届けられていましたが、なかなか自分に合う自転車が見つけられないとか、すぐに壊れてしまったという話も聞いたそうです。

「『自転車を届けられたらいいよね。できれば新品で』という話になったんです」丸田さんは続けました。
「でも、どうしたら自転車を買えるのか、親子自転車っていくらくらいするのかさえよく分からない状態でした。でも震災後不便な生活をしている方が多い仙台で、募金活動をするというイメージは浮かばなかったんです。じゃあどうしたらいいだろうとみんなで相談したんです」


大人用もサイズはいろいろ。50色ものバリエーションがあるTシャツ
売り上げから印刷代や諸経費を引いた額が支援金になっています

そんな話し合いの中で、チャリティーアイテムを作って売ってはどうかという案が出たそうです。
「『復興』とか『がんばる』とかが入ったものではなく、身近な物で、なおかつ自分たちが欲しい物を作ろうという事になったんです」
丸田さんの話に、皆さんうなずいていました。

そんな時、毛利さんの元に、震災で大きな被害にあった印刷会社「株式会社カネヒロ」から、アパートを借りて印刷業を再開したとの連絡が入りました。「株式会社カネヒロ」は自営を営む毛利さんの取引先で、ユニフォームなどを作っている会社。
チャリティーアイテムを「1枚からでも引き受ける」という快いお返事をもらいました。心強い印刷屋さんが現れたことで、少しづつ方向が見えてきました。これはまた、アイテムの注文を出すことで被災した「株式会社カネヒロ」を応援することにもつながります。

毛利さんが言いました。「じゃあ、何を作るかという話の中で、身近な親しめるものが良いと。そんな時、幼稚園の葉書やポスターで親しんでいたイラストが入った物を作ったら良いんじゃないかと思いついたんです」



「そうそう、あの絵かわいいよねって話になって」
丸田さんが引き継ぎました。
「それに、ママが買いたいと思える物でなくちゃ。それがあのイラスト入りの『エコバック』と『Tシャツ』だったんです」

そのイラストは平成17年に作られた向山幼稚園のオリジナルポストカード、3枚の中の1枚。
それはかつて向山幼稚園に通う園児の保護者であり、平成17年当時には職員だったイラストレーターによるもの。

「幼稚園の副園長先生にお願いして連絡してもらい、イラストの使用許可をいただきました」

5月には、ここまで具体的な形にまとまるという早さについて、全て “思いつき” と “インスピレーション” と言い切る、お母さんならではの思い切りの良さと実行力に驚きを覚えました。

その後の売り上げ、被災地に贈った自転車の数は先に記した通り。その展開についてお聞きしました。

「6月に幼稚園が開催した『チャリティバザー』に出店したのが始まりです」
「あの時は事前に普段お付き合いのあるママ友たちにバザーの出店の案内メールを出しました。それぞれ生活があるお母さんの私たちには、在庫を抱えるリスクは負えないので、予約注文という形をとりました」
「でも当日は注文してくれた人が買ってくれただけではなくて、実物を見て買うと決めた人も多く、自分たちの予想を大きく超える売り上げがあったんです」

その時の様子を口々に語るメンバーの皆さんの様子を拝見していると、当時の熱気が伝わってくるようでした。
1回目の販売、「チャリティバザー」の収益ではなんと9台の自転車を届けることができたそうです。
また自転車の売上を地元にも還元するために、被災した石巻の自転車屋さんの再開を待って、その自転車屋さんに納品してもらっています。

「仙台チャリティバック」のその活動は、その趣旨に共感したお母さんからお母さんへ、向山幼稚園の保護者同士のネットワークを飛び越えて、厚木市や川崎市の幼稚園や東京の教会などにも話がつながり、1年目で47台もの自転車を届けられました。アイテムは現在でも売れ続けています。

平成23年6月5日仙台市向山幼稚園「チャリティバザー」
初出店当時Tシャツはグリーンの1色のみでした(画像提供/丸田さん)

それはメンバーの皆さんの予想をはるかに越えた反響でした。
「やはり、東北のために何かしたい。そう考える人が多いからではないでしょうか。それに実際に自分たちが欲しいと思える物を作ったのが良かったと思いますね。声を掛けると手伝ってくれるお母さんもたくさんいるので、その気持ちは同じだと思います」

丸田さんをはじめ、他のメンバーも毎日エコバックを持ち、事あるごとにTシャツを着るそうです。そして偶然、全く知らない方がエコバックを持っているのを見つけると、思わず声を掛けてしまうこともあるそうです。


今まで、このチャリティーアイテムをたくさんの方が手に取ってくれたのは、このようなお母さん同士のネットワークによるもの。「子育て」という同じ体験をしているからこそ分かる気持ちがあり、そこから信頼関係が生まれ、心と心がつながってできているそのネットワークの大きさを、この活動を通してあらためて知ることになった私たち。
それはお互いを思いやる暖かな絆とも呼べるのではないでしょうか。


平成25年11月4日神奈川県相模原市翠ヶ丘教会・幼稚園でのバザーに出店
(画像提供/丸田さん)

心から心への暖かな気持ちは自転車を手渡す時にも活かされています。
自転車を要請された方に直接電話して、なるべくその方の希望に添ったものを、自分たちで実際に自転車屋さんに行って購入しているそうです。しかも防犯登録までして届けるという徹底ぶり。希望によっては雨を防ぐカバーを付けたり、子供用のヘルメットを付けた事もありました。
自転車を受け取った方からは

「いままでたくさんの中古の自転車が(被災地に)届いたけど、自分に合ったものが無かったので嬉しい」
「でこぼこ道を子どもを乗せて走るのに、新しい自転車だと助かります」
「自転車の防犯登録までしてくださるとは本当にありがたいです」
「ありがとう。こんなきれいな色の自転車が届くとは思わなかった」
こんな感謝の言葉が届いています。


平成25年からは7人になったメンバー。左から代表の丸田さん、毛利さん、高須さん、伊藤さん、
鎌田さん、加藤さん、佐藤さん。今年から新しいアイテム「エプロン」が登場
(平成25年12月7日 仙台市向山幼稚園『キリストこども市』)

小さな子どもを育てながらのお母さんたちが始めた支援活動は、初めは小さなものでしたが、いくつもの偶然といくつもの出会いを生み、大きな支援の輪につながりました。この奇跡のようなお話は転機を迎える後編へと続きます。

オリジナルグッズは下記のサイトから購入できます。
[仙台チャリティバック ブログ]
http://sendai5mama.blog.fc2.com/

(取材日 平成25年12月7、8日)