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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年10月27日日曜日

2013年10月27日日曜日8:05
YUUです。

2011年3月11日14時46分。その時は酒造りの真っ最中。蔵には搾りの時を待つタンクが10本ほどあったといいます。

創業明治6年、宮城県大崎市三本木の地で140年近く酒造りの歴史を重ねてきた新澤醸造店は、東日本大震災により、蔵が全壊判定を受ける大きな被害を受けました。


震災後、三本木の蔵を取り壊し、新しく建てられた新澤醸造店・新店舗の店内
創業140年の蔵を離れて、新たなる挑戦(前篇)では、それぞれの土地と密接に結び付くことで歴史を重ねてきた酒造会社としては非常に珍しい、新澤醸造店の蔵の移転の経緯を紹介しました。

三本木の地にあった旧蔵は、2008年の6月14日、岩手・宮城内陸地震の時も大きな被害を受けていました。 明治6年建造の建物の被害もさることながら、大型冷蔵庫が倒壊し、1000本以上の一升瓶が割れてしまったそうです。

3年後、再びの大地震は壊滅的な打撃をこの由緒ある蔵に与えました。


震災後、蔵の中に氾濫した醪(もろみ)を片付ける様子
新澤醸造店は、2011年度も5月1日より、全壊判定を受けた三本木の蔵で酒造りを再開しました。

「震災後、全国の蔵、卸元、酒屋、飲食店、さらに個人の方々から、激励の声、支援物資を次々といただきました。その気持ちに応えるには、酒造りを継続し、商品で気持ちを返したかった。震災時に仕込み中だったお酒はほとんど駄目になってしまいましたが、お米はあり、5月1日より、酒造りを再開したんです」(新澤醸造店・杉原健太郎専務取締役)

杉原さんの説明によると、2011年度、宮城県内の酒蔵で欠品を生じさせなかったのは、おそらくうち(新澤醸造店)だけだろうとのことです。

酒蔵の隣の空き店舗を借りて受注発注を行い、全壊認定の蔵のお酒の貯蔵所で、危険を顧みず、酒造りを行いました。

川崎町への移転を決断する前、余震のたびに蔵中に砂ぼこりが舞い、蔵が傾き、補強でどうにかなるものではないと理解したそうです。

「社長の決断により、2011年度11月1日から川崎蔵への移転、稼働開始が決定していました。三本木の蔵で最後の酒造りを行いながら、約2カ月間で移設準備を完了しました。取り壊す蔵からは使えるものは全て川崎蔵へ運びました」

川崎蔵の中は動線もゆったり、フラットフロアなので作業効率もはかどりそうです


受注、発注などを行う本社機能は三本木に残したままの蔵の移転。

大崎市三本木から川崎町までは、高速道路を使っても移動に1時間を要します。

杉原専務によると、移転から約1年間は、震災以前の従業員が三本木で車に乗合い、川﨑町へ移動したそうです。

「初年度は高速道路無料化の恩恵をかなり受けました。現在は川崎蔵で働く従業員は14名ですが、私(杉原)と社長、もう1名を除くと、他は全て川崎蔵で採用したスタッフです。現在、三本木に残っている従業員は事務系の従業員のみです」


設備等の移送が済んでも即、川崎蔵移転完了というわけにはいきません。、

蔵の現場で働くスタッフは徐々に現地採用を進めて、従来のスタッフからの引き継ぎを行っていったといいます。移転当初は蔵の認知度も地元では低く、従業員募集の告知を出しても、思うように募集人員が集まらなかったそうです。

「酒造りに欠かせない水や環境だけじゃなく、人員も一新しての再出発です。幸い、造りの各部門で働くスタッフは働き始めて日は浅いですが、それぞれ非常に熱心に酒造りに取り組んでもらっています。人員配置はぎりぎりではなく、アフターフォローが取れる体制を取っているので、なにか足りない部分があれば、蔵全体、造り全体を見る私や社長が即時対応します」

川崎蔵で使用する水は全て良質の天然水で賄っています

被災によるやむを得ずの選択ではなく、酒造りを向上させるための前向きな選択だという強い思い。

川崎蔵への移転は、施設面の拡充の意味あいもありますが、素晴らしい水質の土地で酒造りの工程全てを良質の天然水で賄える利点が何より大きいそうです。

「酒造りにおいて、良質で豊富な天然水が使用できることは非常に大きいポイントです。川崎で仕込んだお酒の味が評判が良いのも、水の影響は少なくないはずだと考えています」 


釜場にある仕込みタンク。酒造りの発酵の過程では温度管理が非常に重要
ですが、新蔵になって微細な温度変化も見られるようになったといいます

究極の食中酒を目指し、裏ラベルに「一層食材を引き立てる事、綺麗で爽やかなキレを演出することを大切にしています」と記す新澤醸造店が醸す酒・伯楽星。

甘みや香りを抑え、酸味のあるスッキリとした食中酒。

重厚で主張の強いお酒が話題になることの多い地酒銘柄の中で、上品で、酒の五味のバランスが良く取れたお酒。

震災以前より、伯楽星を扱う仙台市内の地酒専門店、地酒にこだわる飲食店などで耳に入る評価はほぼ一致して高いものがありました。

それでも、高品質の特定名称酒に生産をシフトすることで生き残りを模索してきた蔵が地酒銘柄として残った中で、さらに売上げを伸ばしていくことは容易なことではありません。

「まだまだ未熟な蔵ですが、移転を契機として、これまで以上に酒質の向上に取り組み、銘柄の認知度を高めていきたいと考えています」
  

酒造りは、蒸米、枯らし、麹、その後の仕込みとすべての工程が一瞬も気を抜けず、それぞれの洗練度、工夫が各蔵の違いとなって表れます。

川崎蔵への移転は良質の水が豊富に使えるようになっただけではなく、既存の蔵の使いやすい部分はそのまま利用し、一部を使いやすいように改良することで、作業効率を上げることにもつながりました。


感謝!品質で恩返しと話してくれた新澤醸造店・杉原健太郎・専務取締役

新たなる挑戦、未來を見つめての移転。

今回の取材では、度重なる震災の被害を受けてなお、逆境を躍進の契機に転じたいと高品質の酒造りにかける情熱を失うことのない酒蔵の強い思いが伝わってきました。


なお、新澤醸造店では、「伯楽星」、「愛宕の松」の造りの他に、「和りきゅーる」の挑戦をテーマに梅酒や紅茶酒、ヨーグルト酒など、それぞれ個性的で素材にこだわった日本酒ベースのリキュール酒の生産にも取り組んでいます。


「超濃厚ヨーグルト酒」ジャージー牛 生乳全量使用
濃くてクリーミーな未体験ゾーンの味わいが評判に

特に2010年より生産を開始した超濃厚ヨーグルト酒は一見、いや一度味わってみる価値ありです。

乳牛のなかでもっとも濃厚な牛乳を出すと言われる英仏海峡に浮かぶジャージー島原産、大崎市田尻で大事に育てられているジャージー牛の生乳100%使用。添加物は一切使用していません。

季節限定商品。購入後は要冷蔵の商品なので扱う酒販店も限られていますが、先日、初めて飲んだ私は正直、びっくりしました。

これはお酒なのか。心地良い甘さ、爽やかさに口の中が支配され、良質のバニラアイスを流し込むような感じでした。ある意味危険というか、日本酒はおろか、お酒全般が苦手な人でもぐいぐい飲んで「おいしい!」と叫んじゃうだろうな、と想像しちゃうような味わいでした。


株式会社新澤醸造店
宮城県大崎市三本木字北町63
TEL 0229‐52‐3002

川崎蔵
宮城県柴田郡川崎町大字今宿字子銀沢山1‐115

(取材日 平成25年9月25日)