こんにちは、マイクです。
東日本大震災の発生以降、被災地には、数多くの支援や温かな励ましの声が絶える事なく送られてきました。
募金や寄付、専門知識を必要とする医療、瓦礫撤去を始めとする労働力としてのボランティア―――その形は実にさまざまです。
震災から11カ月を迎えようとしている今、必要とされているものは何でしょうか。
「NPO法人みやぎダンス」の定行俊彰・雅代夫妻は、昨年から被災地支援のために、東松島市 にある「障害者日中活動支援施設 共生園」でワークショップを行っています。
スタートから6回目にあたる今回、ゲストとしてメイン指導者に招かれた岩下徹さんを取材しました。
岩下さんは、京都在住のソロダンサー。
自ら即興でダンスを行う一方、滋賀県にある湖南病院(精神科)で、集団療法の一環としてダンスセラピーによる試みを続けています。
岩下さんのワークショップは、身体感覚への気付き、そして非言語的交流がテーマ。
合図でくっついたり離れたり、ポーズを決めたりという簡単な動作を行うだけで、難しいことは一切行いません。
感覚を開いてしっかりと自他の身体を感じることが大切なのだといいます。
この日の参加者は約30人。
ホールに入ると、賑やかな雰囲気に包まれます。
簡単な紹介の後、岩下さんの即興によるデモンストレーションが行われました。
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ワークショップ開始前、デモンストレーションが行われた |
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参加者に触れながら即興でダンスを踊っていく |
ホールで円を囲む参加者たちに触れ、少しずつ緊張と警戒心を解いているようでした。
その後は、太鼓や鈴など複数の楽器を使い、音に合わせて身体を動かしていきます。
触る・こする・叩くなど、音の出し方によっても参加者の反応はさまざま。
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「でんでん太鼓の動き」や「ジャンプ」など様々な動きに挑戦します |
動きを真似し合ったり肩をたたき合ったり、音に合わせてくっついたり離れたり・・・
動作を通して、参加者同士が身体でコミュニケーションを取っていきます。
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それぞれペアになることで身体コミュニケーションを図ります |
ホール全体を見回してみました。
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賑やかなホール |
積極的に身体を動かす人もいれば、車椅子の上で楽しそうに腕を回す人、一方でただ側に座っている人―――
「参加者」といっても、一概に皆ダンスをする訳ではありません。
しかし、それで良いのだと岩下さんは言います。
「いろんな参加方法が合って良い。
それぞれ自分なりのスタイルで”参加する”ことが大切なんです」
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それぞれのスタイルでワークショップを楽しみます |
ワークショップが終る頃には、開始時とは比べものにならないほど、皆さんの明るく豊かな表情を見ることができました。
震災後、仮設のグループホームに入所した利用者も少なくありません。
自宅や家族を失い、寂しさや不安といったストレスを抱えながらも、その感情を言葉で表現できないために、目立って落ち込む様子は見られなかったといいます。
だからこそ、必要なのは身体表現。
ダンスは心を開く一つの糸口。
活動を通して“穏やかな情緒をつくる”ことを目標にしてきた一方、これまで自己表現をする場があまりなかった「共生園」では、このようなワークショップはとても良い刺激になっているそうです。
参加者の方々の表情も確実に変わってきたと、園長の松本さんは嬉しそうに話してくれました。
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参加者の皆さんには、少しずつ変化が見られるように |
”生活”よりも”生存”が優先された震災直後―――、あれから10カ月が経ちました。
「被災した人たちにとって今度必要になってくるのは”生活”の質。
“生活”とは文字通り、”いきいきと生きること”。そのために、自分に何ができるのか」
震災後、ずっと気丈に振舞ってきた人々も、心に抱えてきた大きなストレスが、この時期になってさまざまな形で現れてくることが多いのだといいます。
「少しずつ身体を動かして心を解放していってほしい」
ダンスセラピーの可能性を、岩下さんの言葉とワークショップから感じることができました。
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「共生園でぜひまたワークショップを行いたい」と岩下さん |
岩下さん、定行さん、そして共生園の皆さん、どうもありがとうございました。
【岩下 徹(いわした とおる)】
1957年東京生まれ。舞踏家/即興ダンス、「山海塾」舞踏手。
1988年より滋賀県の湖南病院(精神科)にて、医療の専門スタッフと共にダンスセラピーの試みを継続中。
日本ダンスセラピー協会顧問。日本即興会会員。京都造形芸術大学客員教授。桜美林大学非常勤講師。
(平成24年1月28日)
マイク