先日お伝えしました[前編]では、東日本大震災発生時に「公益社団法人 宮城県獣医師会」が行った動物たちの救護活動や、設置した「被災動物保護センター」での様子などをご紹介しました。
お話をお聞きしたのは中心となって活動していた獣医師、利府町に開業している「花園動物病院」の中川正裕先生です。中川先生は宮城県獣医師会に所属し、当時は県獣医師会の理事を務めていました。
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2016年3月26日 土曜日
人と動物の共存を目指して[前編]〜大災害からの教訓を伝えたい(利府町、富谷町)
http://kokoropress.blogspot.jp/2016/03/blog-post_71.html
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この回では、現在中川先生を中心に取り組んでいる “意識を変える活動” についてお伝えしようと思います。平時から動物と暮らすということに対して意識が変わることで、それが防災につながり、災害時にもとても役立つと先生は考えています。
「5年前の大震災で悔しいのは、大きな揺れが収まってから家に残してきたイヌ・ネコを迎えに行って、津波の犠牲になった人がいることです」
それを防ぐのは「同行避難」が考えられますが、大震災当時はペット同行避難は単なる努力目標で正式に認定されていなかったため、ヘリコプターに一緒に乗ることもできませんでした。その後2013年8月にようやく環境省による災害マニュアルガイドラインに認定され「同行避難」が義務化されました。
「ペットのみならず飼い主の命を守ることにつながった」と中川先生は感じています
「ペットのみならず飼い主の命を守ることにつながった」と中川先生は感じています
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2011年・被災動物保護センター ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
しかし現実の避難所では、東日本大震災でも見られた状況が繰り返される心配があります。中川先生によると、当時避難所となったある公共施設では、ペットと一緒に避難した人が遠慮して舞台裏の狭い場所に追いやられ、臭いや騒音、衛生面が問題になり、人間関係がさらに悪化したケースがあったのだそうです。
私の友人はネコを飼っていますが、避難所でネコを断られ、仕方なく自分の家で暮らし続けた人もいます。そういった自宅で暮らしている人には支援物資はなかなか届きませんでした。
私の友人はネコを飼っていますが、避難所でネコを断られ、仕方なく自分の家で暮らし続けた人もいます。そういった自宅で暮らしている人には支援物資はなかなか届きませんでした。
避難所などでペットが問題となる背景には、次のような理由が挙げられます。
・そもそも全てにおいて動物より人が最優先とする認識
・以前から動物が苦手な被災者の存在
・動物アレルギーを持つ方の存在
・臭い、鳴き声、被毛が舞い不衛生という意識
・避難所敷地内の糞尿処理マナー違反の飼い主
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避難所でのシャンプー会 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
避難所が特別な社会なのではなく、通常の私たちの社会がそっくりそのまま反映されるのだそうです。
中川先生はまずその意識を変える必要があると言います。
「変な言い方だけど、この大災害を逆手にとろうよと僕らは考えました。
この教訓から得たものは “イヌ・ネコを飼う人の意識が高まれば、好きな人も嫌いな人もその地域で共存できるだろう” ということです。 “社会全体の意識をそこまで持っていこうよ” という計画で、2つの事業を立ち上げ、2015年から実施しているのです」
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避難所でのシャンプー会 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
それは「緊急災害時動物ボランティア認定事業」「緊急災害時動物救護コーディネーター育成事業」の2つ。中川先生はこの2つが両輪となって機能することが必要だと言います。
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(※ 以降、中川先生の話)
【緊急災害時動物ボランティア認定事業】
【緊急災害時動物ボランティア認定事業】
災害時に獣医師会と連携ができるようなスタッフになってもらうのを目的とした事業で、一般の方が対象です。
3日間の講習会と2日にわたる宿泊体験の講座となっていて、動物(主にイヌ・ネコ)に対する正しい知識を習得します。履修すると「緊急災害動物ボランティア認定書」を受領することができます。全ての講座を履修してもらうために、3年間の猶予を設けていますので、忙しい方でも受講してもらえるシステムにしました。
3日間の講習会と2日にわたる宿泊体験の講座となっていて、動物(主にイヌ・ネコ)に対する正しい知識を習得します。履修すると「緊急災害動物ボランティア認定書」を受領することができます。全ての講座を履修してもらうために、3年間の猶予を設けていますので、忙しい方でも受講してもらえるシステムにしました。
昨年(2015年)から始まり、最初の講習会には46名が参加。最終的に11人の、第一期認定ボランティアが誕生しました。
[ボランティア認定の目的]
防災には「自助」「共助」「公助」という段階がありますが、大事なのは「自助」「共助」の部分です。
「自助」とは、普段から意識を持って災害時に備え準備をしておくこと。自分の飼っているイヌ・ネコ用のゲージ、ペットフード、シーツなどの用意などです。
しかし一緒にいる時に発災するとは限らないですね。そこで「共助」が重要になります。
しかし一緒にいる時に発災するとは限らないですね。そこで「共助」が重要になります。
近所の人と普段からコミュニケーションすることが大事になります。顔見知りになっていれば動物たちも慣れるので「自分が仕事でいない時は一緒に連れて逃げていただけませんか」と頼める関係になります。
また、飼い主同士が顔見知りになることによって、糞の置きっぱなしとかが恥ずかしいと思えるレベルまで持っていくようにする。意識が高まれば普段からの飼い方を変える事ができるのです。そういうことを「ボランティア認定」を受けた方に地域で頑張って広めてもらうのが目的と言えます。
僕らは必要と思ってボランティアを認定したのだから、その後それをどう広げるかがこれからの課題です。
意識が高くなっていれば発災した時も簡単ではないですか。
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保護センターでのボランティア作業 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
【緊急災害時動物救護コーディネーター育成事業】
対象者は宮城県獣医師会会員の獣医師、宮城県職員、市町村職員(人の防災担当と動物の担当者)、保健所などの動物担当です。
これは避難所でいち早く運営する側を作りたいという計画で、いわゆる「公助」の部分をコーディネーターが中心となってやってもらいたいという考えです。
初となった2015年は2月と7月にワークショップ講習会を開催し、約50人が参加しましたがまだまだ足りませんので、今後も1年度に2回開きたいと計画中です。
これは意味が大きくて、どこの自治体でも防災計画はあるんだけど、具体的にどう動くかまでは無いんですね。
講習会ではゲームなどを通して、避難してきた人や動物たちをどのように「棲み分け」をするかを勉強する内容もありますが、それは発災時に地元のコーディネーターが中心となって、早い段階で受け入れ態勢を構築する必要があるからです。
避難所では受付がありますので、そこにコーディネーターも座って動物のリストも作り、トラブルが起こる前にどこに動物たちを収容するなど決めるのです。そこの本部長とやり取りすることになるので、コーディネーターは地元の人がなるべきですね。そしてよそから来たボランティアを排除するのではなく、うまく協力して働いてもらうためにも大事なことです。
意識してほしいのは、他で震災を経験した人が先生ではないということです。
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動物関連専門学校生によるボランティア活動 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
その場合、学校が避難所として都合がいいのは教室を使えること。教室は風通しも良いですし、ネコの部屋、イヌの部屋が確保できます。
アレルギーのある人や嫌いな人との「棲み分け」をどうコーディネートするかが大事ですが、それがしやすい場所だと思います。
このような対応が実現すると、1次シェルターは必要なくなるかもしれません。
動物だけを集める必要があれば、各自治体の作る2次シェルターで良いと思う。
放浪犬や飼い主のいない動物は愛護センターに集まってくることになってるので、そこに獣医師会とタイアップしてやっていけばいいのです。
このような対応が実現すると、1次シェルターは必要なくなるかもしれません。
避難所ごとに同行避難してきた人たちが、ペットにご飯をあげたり散歩できたりするところに一緒に住めるスペースを作る方が、人も動物たちも安心ですよ。
動物だけを集める必要があれば、各自治体の作る2次シェルターで良いと思う。
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保護センターでの治療と看護 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
【今後考えていること】
市町村それぞれの条例を作るまで持っていきたいですね。
現行では避難所までは一緒に逃げていいけれどその先、一緒の生活までは許可されていない状態です。「同居避難」を認める条例を、各自治体に任せて作ってもらえたらと思っています。
現行では避難所までは一緒に逃げていいけれどその先、一緒の生活までは許可されていない状態です。「同居避難」を認める条例を、各自治体に任せて作ってもらえたらと思っています。
例えば「ウチの町は、ウサギでも小鳥でも一緒に連れて来てください」といったマニュアルができること。それは理想ですね。
でもそこまでいくには、人も動物も一緒に顔見知りになっていないとそれはなかなか無理なので、「緊急災害時動物ボランティア」などが地元で知識を広めてくれることが重要になってきます。
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保護センターでの看護 ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
この活動は、希薄になっているご近所関係が動物のおかげでつながりができて、防災にもつながっていく……という意味が大きいことなんです。
そしてそれをきっかけに、イヌやネコと共生できる社会を作りたいですね。壮大な夢ではなくて、こういうことをやっていれば実現できるかも。
この事業をしている獣医師会は日本では初めてなんですよ。
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こうして動物に対する正しい知識を深めることによっても、防災につながる事があることをこの取材を通して教えていただきました。
今後、国内で起こると言われている大災害を恐れているだけではなく、被害を拡大しないために日頃から私たちにもできることがあるのです。中川先生が言うように、“私たちは大地震を経験しました、大変でした” だけで終わってしまうのは、もったいないことです。
私たち “被災した宮城県民” から防災の意識を発信し、広めようではありませんか!
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保護センターで動物たちは夜間、ケージで過ごしました ※ 画像提供:宮城県獣医師会 |
「緊急災害時動物ボランティア認定事業~災害時の正しい知識と心構え~」は平成28年度も開催が決まっています。
講習会:[第1回]6月12日(日)・[第2回]8月21日(日)・[第3回]:11月6日(日)
各2講座(1講座90分) 受講料:1講座500円
同行避難訓練・宿泊体験:9月10(土)~11日(日)
場所:宮城県獣医師会館
受講ご希望の方は事前に申し込みが必要です。申し込み方法など詳細は、宮城県獣医師会事務局(電話:022-287-1737)にお問い合わせください。
宮城県獣医師会元理事・中川正裕先生 |
「僕らはこれをずっと続けてゆく覚悟です。とにかく人と動物が共生して住みやすい環境を作っていけば、防災のことだけやるよりもずっと防災につながっていくのではないかな……と思っています」
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2014年10月17日(金)動物たちの大震災は終わらない~アニマルピース(仙台市)
http://kokoropress.blogspot.jp/2014/10/blog-post_17.html
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◆ お問い合わせ先
公益財団法人 宮城県獣医師会事務局
仙台市宮城野区安養寺3丁目7-2
電話:022-287-1737
http://miyaju.jp/
◇ 花園動物病院
宮城県宮城郡利府町花園3丁目12-3
電話:022-356-7699
(取材日 平成28年3月3日)