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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2014年12月5日金曜日

2014年12月5日金曜日9:11
石野葉穂香です。

10月26日、大崎市古川の中心街区にある交流施設「醸室(かむろ)」の一角に、「ふつふつ食堂」という新しいレストランがオープンしました。
その開店を祝うセレモニーと、同市田尻地区でお米の有機栽培を手がけている「伸ふゆみずたんぼ生産組合」の皆さんが育てた『ふゆみずたんぼのササニシキ(有機JAS)』を使った6次化商品の発表レセプションが、にぎにぎしく開催されました。




「ふゆみずたんぼ」――。
どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?
江戸時代に会津地方で生まれた〝冬期湛水水田〟という農法です。
冬の間、田んぼに水を張っておくことなのですが、実は、これがおいしいお米作りにとても有効なのです。

さらに、冬になると、おいしいお米作りに欠かせないパートナーが、遠い北の空からやってきます。
宮城県北部には、例年、9万羽を超えるマガンや白鳥たちがやって来て、伊豆沼、内沼、蕪栗沼、化女沼などの水辺をねぐらにして越冬するのですが、彼ら水鳥たちもまた、この農法の大切な〝担い手〟となってくれるのです。

稲刈り後の田んぼに集うマガンの姿は宮城県北地方の冬の風物詩
(写真提供:伸ふゆみずたんぼ生産組合)


水張りされた冬の田んぼには、菌類やイトミミズが大発生して、稲の切り株やワラなどを分解して天然の肥料にしてくれます。
イトミミズやユスリカなどは、土中の有機物を食べては分解し、活発に動く微生物を含む糞を出し、「トロトロ層」と呼ばれる養分豊富できめ細かな粒子の土の層を作ります。

さらに、北国からやって来た多くの水鳥たちは、稲刈りのときコンバインからこぼれた田んぼの落ち穂をエサにして越冬するのですが、彼らはリン酸や窒素を含む糞を田んぼに落として行きます。これもまた土の養分になります。

微生物がいっぱいの水田には、カエルやトンボたちが大喜びで産卵。成長後には稲に付く害虫を食べてくれます。
また、「トロトロ層」は一年で10㎝近くも堆積し、コナギやヒエといった雑草の種を土中に埋め込んでしまいます。


冷たい水の下でも、生命の営みは続けられています
 (写真提供:伸ふゆみずたんぼ生産組合)


つまり、微生物や水鳥たちによる「施肥効果」(肥料を入れる効果)が得られ、夏には害虫や雑草の発生も抑えられるというわけ。
養分が豊富だから化学肥料は要りません。虫も雑草も少なくなるため農薬も不要です。

伊豆沼、内沼、蕪栗沼、化女沼は「ラムサール条約(『特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約』」の登録地。
1985年に伊豆沼と内沼が、2005年に蕪栗沼が、2008年には化女沼が登録されました。


夜明けとともに水鳥たちが一斉に飛び立つ雁行(がんこう)
(写真提供:伸ふゆみずたんぼ生産組合)


「2003年、大冷害に見舞われたとき『寒さに強い稲を育てよう』と、有志で米づくりの研究をスタートさせたのが『ふゆみずたんぼ』の、そもそもの始まりです」
とお話しくださったのは、蕪栗沼のそばでササニシキ栽培を行っている『伸ふゆみずたんぼ生産組合』事務局長の髙橋直樹さん。


「同じ頃、蕪栗沼が「ラムサール条約」に登録されそうだという知らせがあり、じゃあ農業者にも何かメリットはないだろうかって考えて『有機栽培をラムサール条約登録地内で行う』ことと『マガンたちと共生する農業」ということを打ち出して行くことにしたのです』


髙橋直樹さん

マガンはハセに干した稲を食べる害鳥なんてと言われたこともありました。でも、空を飛んでくる彼らには言い聞かせようもありません。
ならば、マガンたちが越冬しやすい環境をつくり、微生物やカエルたちと同じ一連のサイクルの中に入ってもらおうと考えたのだそうです。

大崎地方の米の平均収穫量は10aあたり9俵(1俵=60㎏)。
『伸ふゆみずたんぼ生産組合』では、当初は有機栽培に不慣れだったこともあり4~6俵ほどでしたが、11年目となった今年は8俵ぐらいの収量となりました。

作付面積も増えていく中で、お米を売るだけでなく、何らかの商品化も行いたい。
そう考えていたとき、被災地での農業復興や振興を支援するキリンビール(株)の「キリン絆プロジェクト」と出合い、色彩選別機や低温倉庫なども導入し、「焙煎玄米粉」や「ロースト玄米」「ペットボトル入りのササニシキ」などの商品開発がスタート。
10月26日、「醸室」にオープンした「ふつふつ食堂」でのレセプションは、その成果を発表する場でした。


大崎市のイメージキャラクター「パタ崎さん」


「ふつふつ」というのは、〝醪(もろみ)〟が発酵していく時に出る音です。
日本酒や味噌、醤油、漬け物、納豆など、古くからの農業地帯だった大崎地方には多彩な発酵文化が伝えられています。
また、水鳥の羽ばたきの音を、古語では「ふつふつ」と表しました。

「醸室」は、かつてこの場所で操業していた日本酒醸造蔵の蔵群を改装した観光施設。
土蔵には、飲食店や物販店がテナントとして入り、大崎市の味覚や郷土の文化発信、交流イベントなどが開催されています。

「醸室」は、悲恋の歌枕として多くの和歌に詠まれてきた
『緒絶橋』のそばにあります

「醸室」もまた、東日本大震災のときには、蔵の壁が崩落したり、倒壊するなど、やはり大きな被害を受けました。
地震の直後、執務室の窓から街を見た伊藤康志市長は、土蔵が倒れて土ぼこりが舞い上がっている様子を見て「火事だ!」と思ったそうです。

大崎市は、震災の傷手から立ち上がろうと、観光業や農林業の振興、交流人口の拡大、自然エネルギーの創出といった多種多様な独自の政策を打ち出しています。
「ふゆみずたんぼプロジェクト」もその一つです。

レセプションで発表された6次化商品。
左から・・・冬期湛水+有機栽培の「ふゆみずたんぼササニシキ」、
「ふゆみずたんぼササニシキ玄米」、
玄米のまま焙煎した「ふゆみずたんぼササニシキロースト玄米」
玄米を超微細粉砕した「ふゆみずたんぼささにしき焙煎玄米粉」

宮城県北地方には、今年もたくさんの鳥たちがやって来ました。
そして、昆虫、微生物たちとともに、水鳥たちもまた、農業という人間の営みの中に「参加」しています。

伊豆沼から羽ばたく水鳥たちの羽音は「日本の音風景100選」でもあります。
蕪栗沼もまた、マガンの飛来地としては国内有数の場所。
日の出とともに飛び立ち、夕方にはねぐら入りする鳥たちの姿を見に、そして、大自然の大いなるサイクルの中で農業が営まれている大地を見に、ぜひ一度、宮城へお出掛けください。

大崎市といえば・・・
鳴子温泉のこけしもお忘れなく
もちろん、おいしい恵みもいっぱいそろっていますよ。

(取材日 平成26年10月26日)