ザーリャです。
前編では、住民の皆さんと一緒につくった復興計画について、都市デザインワークス代表の榊原進代表にお話しいただきました。
2014年6月4日 水曜日
100万都市の「新しい田舎」を創る ~みんなの居久根プロジェクト~ [前編](仙台市)
http://kokoropress.blogspot.jp/2014/06/100_4.html
7月11日(金)にワークショップを開催します!(記事の最後で、くわしくご紹介しています)
「私が考える‘これからの’居久根〜そもそも居久根って何?!〜」
http://www.udworks.net/archives/news/minnanoigune0711
古くからの集落の形を伝えていた南蒲生地区。水田の浮島のようなその集落を、高さ5mの津波が襲いました。失われた多くの尊い人命、そしてふるさとの姿。南蒲生の人々は、後の新しい世代に引き継ぐための、まちの姿を考えます。立場を越え行われた度重なる話し合い。そして生まれた、“新しい田舎”というコンセプト。それはいったい、どんなものなのか。「それを探求すること自体が復興である」。榊原さんはそう話しました。
後編は、都市デザインワークスで榊原さんとともに「仙台平野 みんなの居久根プロジェクト」に取り組んでいる岡井健さんに、お話を伺います。
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これからは実践の機会を増やしたいと語る 岡井さん |
「新しい田舎」のシンボルとして、復興の重点プロジェクトに挙げられた「次代につなぐ居久根のある景観づくり」。しかし、居久根をどうしても必要とする生活ではなくなり、昔のような居久根を再生させることは現実的ではない、そう考える人たちが多い中で、どんな居久根を再生させるのでしょうか。
「実は新しい居久根のイメージというものが、当初はなかったのです。“新しい田舎”の定義と同じように、それは探求しなければならないものでした」
生活に馴染む居久根の形態と、所有者の負担を減らす仕組みがなければ、居久根はまた失われる。岡井さんはそう言います。
「居久根再生の取り組みは、少なくとも数十年に及ぶものです。活動を継続させるためには『継続可能な仕組み』が必要です。そのうえで、行政や市民、企業やNPOなど多様な人々が参加して、一緒に作り上げてゆくのが理想です。そのプラットフォームとして考えられたのが『居久根ひろば』です」
◆プロジェクトをけん引する「居久根ひろば」
さまざまな人たちが参加して作られる『居久根ひろば』。岡井さんは、この『居久根ひろば』が入り口となって、参加者はさらに深い活動にも踏み込める、いわばプロジェクトの『けん引役』になるのではと言います。
新しい居久根の形を模索するワークショップ |
「『みんなの居久根プロジェクト』に賛同する方から土地の提供を受け、そこにそれこそ『みんな』で木を植え、育てていきます。居久根に囲まれた広場は、小径(こみち)やビオトープのある子どもの遊び場、市民農園、町内のお祭り、居久根マルシェなど、だれもが集える開かれたエリアになる可能性をもっています。
『居久根ひろば』を作り、維持してゆくのは、活動に賛同する人、行政や企業、NPOも含めた『みんな』なのです。ともに支え合う信頼関係も生まれるでしょう。そこから個人宅の居久根の保全活動や、田舎体験などの交流にも広がってゆく。『コミュニティの拠り所』になると良いと思います。
ワークショップでは「なにができるのか」を考えてゆきます |
これまで、居久根は個人のものであり、個人が管理してきました。しかし、これからは居久根の所有者だけに『頑張ってください』という状態では続きません。協力したいと思う人たちが、居久根の所有者の皆さんと一緒に木を植え管理する。『実際にみんなでできることは、どこまでなのか』、それを探りながら進めるのが『みんなの居久根プロジェクト』全体の仕組みなのです」
◆実生(みしょう)の植え替え実践
岡井さんたちは、その実践の場として、実生(【みしょう】:発芽したばかりの苗)の植え替えも行っています。
残った居久根が、種を落とし、実生が育っていました |
芽吹いた実生を丁寧に掘り起こしていきます |
「ランドスケイプの先生の発案で、それらの苗を地区の皆さんとともに掘り起こして、約50株を隣の土地に植え替えました。現場にランドスケイプや建築の先生方もお招きして、地域の生態を学びながら作業に当たりました。居久根を形成していた樹種や特性を理解することは、先人の知恵を知ることでもあり、新しい居久根を作り育てるためには欠かせない知識になります。今年は、実践を促す学びの機会として、さらに発展させたワークショップを考えています」
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移植された実生苗 |
◆交流人口を増やすために
南蒲生が進める“新しい田舎”。それには、さまざまな人に町を訪れてほしいという願いも込められています。平成27年には、仙台市営地下鉄東西線が開業し、集落から西へ4kmの場所に始発駅となる「荒井駅」が開業します。また昨年には株式会社「みちさき」によって南蒲生町内に大規模溶液栽培施設が完成し、生産を始めています。
「みちさきマルシェ」の様子。土曜日の朝7時に開催されています |
『マルシェ』を開催したり、地元の食材を使った『農家レストラン』や『田舎ぐらし体験』・・・、そういったものを将来できた『居久根ひろば』で開催できれば良いですね。将来的に交流人口を増やす事につながればと思っています。
わたしたちは『南蒲生スタイル』と言っているのですが、“南蒲生ではないとできない暮らし方”を見つけ、発信していきたいと思います。
大規模溶液栽培の『みちさき』さんは毎週土曜日に『みちさきマルシェ』を開催されていますが、トマトやイチゴ、葉物の販売で、大変な人気です。そういった地元企業の取り組みとも連携して、産業交流につながればと思っています」
一年後に迫った東西線の開業。南蒲生でのさまざまなイベントの開催も楽しみです。
◆地域の魅力を後世に
議論を重ね、少しずつ見えてきた新しい南蒲生の姿。若い世代がまちづくりに積極的にかかわり、ゆっくりとですが、着実に進んでいます。最後に、プロジェクトのこれからについてお伺いしました。
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打ち合わせを行う 都市デザインワークスと建築・ランドスケイプなどの専門家のみなさん |
もちろん、実践を進めたいと思っています。『木を植えたいな』と思っていても一歩足が踏み出せない方もいます。『こういうものだったらすぐできるよ』ということを、専門家のアドバイスを交えて紹介できればいいですね」
震災後、多くの被災地でまちづくりが進んでいます。『みんなの居久根プロジェクト』とは、都市デザインワークスにとってどんなものなのでしょう。
「私たちは震災があったから、このような取り組みをしているわけではありません。平時においてのまちづくりと、何も変わりはないのです。地域の重要な魅力を何とかして次の世代につなげたいと思っています。南蒲生の魅力に、たまたま私たちが気き、賛同してくれる住民の方々がいる。だから一緒にできるのです。それが今回の『みんなの居久根プロジェクト』だと思っています」
都市デザインワークスのお二人はそう語りました。
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ワークショップの開催が決定しました!
取材の終了後に、「みんなの居久根プロジェクト」でワークショップを開催することが決まりましたので、ご紹介します。どなたでも参加できます。
第1回:私が考える‘これからの’居久根
〜そもそも居久根って何?!〜
「杜の都」仙台は、広瀬川の河岸段丘上に置かれた城下町と、
奥羽山脈からのびて街を包む山手・丘陵の「森」、海手・平野に広がる「田園」、
それらをつなぐ「河川」でつくられています。水田に浮かぶ「居久根」
(古くから防風や屋敷境などの為に植えられてきた家屋の屋敷林)は街からほど近くにあって、
豊かな自然を感じる、仙台平野の原風景です。
これまで受け継がれてきた居久根は、暮らしや住まいの変化によって徐々に減少し、
東日本大震災の津波で大きな被害を受けました。これからの暮らしに沿った新しい居久根をみんなの手でつくり、
次の世代へとつなぐ取り組みを「仙台平野みんなの居久根プロジェクト」として進めています。
今年は、居久根の魅力や、これからつくり、育んでいくための手だてをみんなで考えながら、
実際に植樹も行ってみます。第一回ワークショップでは、次の世代につなぐ“これからの居久根”について、
あなたのアイディアを聞かせてください。
「そもそも居久根って何?!」という方の参加も大歓迎です。
■日時 : 2014年7月11日(金)18:30〜20:30(受付18:00〜)
■場所 : 仙台市市民活動サポートセンター6階セミナーホール
■定員 : 30名(要申込・無料)
※下記記入の上、7月3日までにお申し込みください。
※申込多数の場合は抽選となります。
■申込・問合せ先:mail info@udworks.net / fax 022-796-0080
■申し込み・詳細等についてはコチラごご覧ください
http://www.udworks.net/archives/news/minnanoigune0711
■主催 : 特定非営利活動法人都市デザインワークス http://www.udworks.net/
■後援 : 仙台市
■助成 : 宮城県「みやぎ地域復興支援助成金」
「仙台平野 みんなの居久根プロジェクト」
プロジェクトFacebook : https://www.facebook.com/minnanoigune
(取材を終えて)
震災によって気づかされたものの中に、自分たちの“故郷のかけがえのなさ”がある気がしています。今回の震災では、津波や原発事故によって故郷を失った方々がいます。そのために、ことさらそれを強く感じるのかもしれません。ふるさととは、ただ住所を示す地番がそこにあるというだけではないのです。
南蒲生の方々は、小さなブロックを一つ一つ、時間をかけて積み上げ、故郷を取り戻そうとしています。時間がかかる作業です。
しかし、数十年後にはまた居久根に囲まれた緑の集落がよみがえるのだろう。
お話を聞いてそう思いました。
(取材日 平成26年5月12日)