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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年12月26日木曜日

2013年12月26日木曜日23:45
YUUです。

栗原市にある東北本線宮城県北限の駅、有壁駅。

下り列車の次の駅は岩手県一ノ関ですが、上り列車の隣駅も岩手県の清水原駅なんですね。私はつい最近になって知りました。

石越駅から一ノ関駅間のように宮城(石越)ー岩手(油島、花泉、清水原)ー宮城(有壁)と県境を3回越えるような例は、本線系の路線ではここだけだといいます。
 


栗原市金成(かんなり)有壁上原前にある有壁駅
この有壁駅からほど近いところにあるのが今回の記事の取材先です。




昨秋竣工した萩野酒造の新蔵
免震構造で現代的な酒蔵に不可欠な空調設備を備えています


真新しい体育館のような建物は実は酒蔵です。

日本酒「萩の鶴」、「日輪田」の醸造元、萩野酒造株式会社(以下・萩野酒造)は創業天保11年(1840年)。この金成(かんなり)有壁の地で170年ほどの歴史を育んできました。

栗原市金成一帯は内陸部で、東日本大震災の津波による被害こそありませんでしたが、地震の揺れによる被害は甚大で、蔵には亀裂が入り、建物そのものも傾いてしまったそうです。

「2011年の冬の造りは建物に応急処置をして何とか旧蔵で乗り切りました。しかし、作業を続けるなかで、もう一度大きな地震があったらこんどは人命に関わる。この地でこれからも酒造りを続けていく以上、被災した蔵での酒造りは限界だと感じて、蔵の新造を決断しました」

こう述懐してくれたのは、萩野酒造の8代目蔵元でもある佐藤曜平専務取締役。

新蔵では仕込み室の動線もゆったり。死亡事故につながる作業中の転落を防ぐために、
タンクの高さもきちんと考えられています。旧蔵ではタンクをのぞく時に足場がおぼつかなることもあったとか

萩野酒造は2008年の岩手宮城内陸地震でも大きな被害を受けています。

「旧蔵は何分古い蔵だったうえに、大きな地震による被害を度々受けて、増改築を重ねていました。そのため、作業上の動線が悪く、色々と非効率な面を感じていたんです。新しい蔵は、まず、その見直しを行いました」

新造された蔵は、限られた人数の蔵元が効率良く作業を行えるように動線も余裕を持って設計されています。また、仕込み室、酒母室、搾り室のいずれも室温を自動的に感知するセンサーを取り入れるなど、完全空調化したそうです。

酒蔵の心臓部ともいえる麹室(こうじむろ)。杉板の木目も美しい

新しい蔵の中を曜平専務の弟さんでもある蔵人、佐藤善之さんが案内してくれました。

昔から「1麹、2もと、3造り」と言われるように酒蔵の心臓部ともいえる麹室(こうじむろ)。

節がない壁の木目が美しく、室内に入っただけでなにか荘厳な雰囲気に包まれるようです。

「麹室は寒冷期でも室温を30℃以上に保温する必要があります。室内では大量の水分が蒸米から蒸発するので、床、天井、壁を断熱構造にしたうえで、効率的な専用の換気施設を設けなければなりません」(善之さん)

天井に設けられた麹室の換気口
宮城県北部伝統の火の神様である「釜神様」が迫力のある容貌で見守っています
麹室での仕込みは、高温、多湿の部屋のなかで2昼夜にも及びます。

肉体的に重労働だというだけではなく、蒸米に麹菌の胞子をつける繊細なさじ加減、蒸米を冷ましたり、また、種麹を降った後に麹の温度がどんどん上昇するときの微妙な温度調節など、片時も気を抜く暇のない、神経をすり減らす作業です。

「製麹(せいきく)の作業では、本当に温度管理が重要なんです。単純に室内の温度を一定に保てば良いというものではなく、蒸米の温度が場所によってばらつきがあるようでは困ります。高品質を追求するほどに機械まかせにすることはまず不可能で、人が手を入れて、蒸米をほぐしたり、微妙な調整をしなければなりません」

麹室は、ある意味、蔵の顔が浮かび上がるような場所です。

新、改築する場合には、多くの蔵元が、酒造りに対する思い、そのこだわりの部分を専門の業者に伝え、発注するといいます。萩野酒造の場合も、もちろん例外ではないことが、曜平さん、善之さんの話を聞き、真新しい麹室に足を踏み入れただけで伝わってきました。

萩野酒造の醸す2銘柄「萩の鶴」、「日輪田」(提供・萩野酒造)
ラベルを見ても、良いお酒の「たたずまい」を感じます

純米酒、純米吟醸酒などの特定名称酒を愛飲する地酒ファンの支持を年々集めている萩野酒造が醸す酒、「萩の鶴」、「日輪田」。

萩の鶴の酒名は、元々、蔵の一帯が萩野村だったことに由来するといいます。萩野村を含む3つの村が合併して金成(かんなり)町となり、金成町を含めた栗原郡全10町村が2005年に広域合併して、栗原市となりました。

「先祖代々受け継がれてきた『萩の鶴』の名前には愛着があります。言葉の響きも好きですしね」

一方、日輪田は、10年前、全量純米造り、特約店限定卸しでスタートした銘柄。短い期間で、東京都内など宮城県外での販路を開拓してきました。

「都内の酒販店さんから、『日輪田さん』と呼ばれるようなこともありました。自分が中心となって始めた銘柄ですから認知度が上がることは嬉しいことです。一方で、2つの銘柄が並列することによって『萩の鶴』の名が埋没してしまうようなことは、本意ではありませんでした」

量を売るための拡大戦略ではなく、蔵元自らが美味しいと思うような日本酒、「良い日本酒」を造ることにかじを切ってきた酒蔵の多くは、慣れ親しまれてきた銘柄の他に、新しい酒名の酒を世に訴える。特約店販売を主力とする新銘柄の開発、販路展開は、近年、多くの地酒蔵の間で、一種のトレンドになっていたような状況でもありました。

「これまでの銘柄が普通酒、新しい銘柄が特定名称酒というような場合は分かりやすいのですが、
うちの蔵の場合はそうではありません。今後は、2つの銘柄の特徴をより鮮明に、手に取っていただくお客様が分かりやすいかたちにしていきたいと考えています」

「萩の鶴」は蔵の中心銘柄として、宮城産のお米を中心にした造りにこだわり、これまで同様に飲み飽きしない酒質の日本酒を目指していく。一方、「日輪田」は蔵のサブブランド、プレミアムブランドとして、よりコアな日本酒ファン向けに「山廃造り」にこだわった展開をしていく。

昨年末から今年初春にかけての新蔵での1期目の造りを終えて、8代目蔵元である曜平専務の酒造りに対する理想は、これまで以上に鮮明なイメージが描かれ始めているようです。

宮城のお酒で宮城を元気に‼とメッセージを残してくれた
佐藤曜平さん(左)と佐藤善之さん(右)
宮城県はひとめぼれ、ササニシキの産地として全国に知られるだけではなく、1986年より「みやぎ・純米酒の県宣言」を実施して、いわゆる高級酒である特定名称酒の比率が全国一の県です。

それだけ熱心に高品質の酒造りに取り組む蔵がたくさんあります。

ただし、互いに切磋琢磨し協調していく部分は当然あるにしても、それぞれの蔵の個性を訴え、新しい販路を開拓していく、また、リピートユーザーの心をつかむ必要性を多くの蔵が感じていることも確かでしょう。

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東日本大震災により、昨年、蔵を新造した萩野酒造でも萩の鶴、日輪田のさらなるブランディング化、また、これまでの酒造りを深化させ、新たな酒造りの試みにも挑戦していく考えのようです。

実際に、24年度に限定生産で醸した「萩の鶴 純米大吟醸 試験醸造酒」は、シャンパングラスで飲む食前、食後酒のようなイメージで造りを行いワイングラスでおいしい日本酒アワード2013の最高金賞を見事獲得しました。

蔵にも現在、在庫がないほどの反響だったそうです。

萩野酒造がこだわる「冷蔵瓶貯蔵法」とお酒のおいしさの関連性、日輪田ブランドで挑戦していく新しい「山廃仕込み」など、被災後に新造した蔵だからこその取り組みについても、後日、後編で紹介したいと思います。


日本酒「萩の鶴」、「日輪田」醸造元
萩野酒造株式会社
www.hagino-shuzou.co.jp

(取材日 平成25年11月15日)