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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年12月7日土曜日

2013年12月7日土曜日13:44
こんにちはエムです。

残ったのは体だけ。他は全てを無くしてしまった。
そんな体験をした方の話をこの生涯の中で聞くことになるとは、考えてもみませんでした。……今までは。

東日本大震災で、福島県北部から宮城県南部にかけての沿岸部は、海からの津波と、山にぶつかってりはね返った津波の両方に襲われました。
山にはね返った津波は平地をなめるように北上し、山元町にも甚大な被害をもたらしました。

その山元町で、震災のあった平成23年からイチゴ栽培を再開したいちご農家がありました。
その中の一つ「菅野園芸」を取材させていただきました。

通称「ハウス」と呼ばれているビニールハウス。
中は温度管理がされ、冬でも春のように暖かい

長年、家族でいちご農家を営んできた「菅野園芸」菅野孝雄さん。山の近くにあった自宅は津波被害に合い、屋根だけが2km先に見つかった他は何も残らなかったそうです。自宅より海側にあったいちご農園のハウスは跡形もなく流され、農地はがれきに覆い尽くされていました。
幸い、菅野さんの家族8人は全員避難して無事でしたが、それは菅野さん一家の“生きる戦い”の始まりだったのです。

避難所生活は1カ月にわたりました。
その間、92歳(当時)の菅野さんのお母様は親戚の家へ、お嫁さんのまろみさんと3人のお孫さんは、まろみさんの実家のある青森に避難していました。菅野さん一家が再び一緒に住めるようになったのは、一戸建のみなし仮設住宅が見つかった4月に入ってからでした。

当面の生活費のために息子さんの孝明さんとまろみさんが外で働く中、菅野さんと奥さんの明子さんが、親交のあった蔵王町の畑を借りて親苗の育苗をスタートさせたのは、5月という早さだったそうです。

親苗から伸びたツルから出た芽が、イチゴが実る苗となります

「自分にはいちごを育てることしかできない。それを1年でも休んだら嫌になると思った。ずっといちごに携わっていないと気持ちが切れてしまうのが怖かった。気持ちが切れたら終わりになるから」
菅野さんは当時を振り返り、そのように話しました。
それは明子さんも同じ気持ちだったそうです。

「蔵王まで毎日通うのが大変だった。3日に1回づつ車に給油する日々。
この先どうなるんだろうと考えて不安だった…」
いちごを詰めながら話す菅野明子さん

蔵王での育苗と並行して、ハウスを建てるための土地とハウスの確保を急ぎました。菅野さんの尽力で、角田市の知り合いからハウスと畑を10アール、山元町内の山沿いの畑を10アール借りることができ、平成23年は合計20アールの農地でのスタートでした。


震災前は70アールの農地を所有していたそうですが、規模は小さいとはいえ、震災の初年度からこれだけ再開できたのは驚くべきことです。

「これも、ボランティアの人や町の青年部など、たくさんの人が協力してくれたから」と、取材中に何度も菅野さんは言いました。

さらに、県との連絡を欠かさず行っていた菅野さんの耳に、その秋、良い知らせが入りました。「東日本大震災災害対策等の支援事業」が始まり、ハウスの復元が決まったのです。今までの場所で再開したいと訴え続けた菅野さんの気持ちが実現することとなりました。その事業は24年春に着工されました。

ミツバチは大事な“相棒”。ミツバチの協力無しには
いちごはほんのわずかしか結実しません
 
一棟に平均2つのミツバチの箱が
置かれています

県の事業が動いた続く24年は、整地された現在の場所にハウスが建てられました。

「ここまで来るには、自分たちだけでは到底できなかった。全国から来てくれたボランティアの人たちやたくさんの人が助けてくれたんだ……」

前年に山沿いに建てたハウスをボランティアの人たちが解体して運んできてくれたのです。 
「自分たちが3、4カ月かかって建てたハウスを、たった1日で解体して持ってきてくれたのは驚きだった」
また、解体したハウスの再建に手を貸してくれたのは、仙台のゼネコンOBによるボランティア団体でした。
8月末には、たくさんの人の協力や県の事業により、30アールまでに回復したハウスが完成しました。ハウスには無事にいちご苗が植えられ、その年11月には出荷を実現しました。

さらに国の農業公社による「被災地域農業復興総合支援事業(山元町いちご団地化整備事業)」も始まり、25年の今年は、震災前の70アールまで農地が回復したとのこと。

想像以上に大きく立派なハウスは三角の屋根3つで1棟

また、震災前に山元町にあった直売所「夢いちごの郷」の会長でもある菅野さんは、事務局長の斎藤忠男さんと共に、新しい直売所の土地を確保するための交渉なども行ってきました。
「夢いちごの郷」はいちご農家の他、野菜農家、りんご農家など約50人の会員がいます。
沿岸部だけではない会員のためにも再開の必要性を感じた菅野さんは、なんとか私有地を借り、支援のために山元町に入ってくれた自衛隊の残したプレハブを譲り受け、23年9月9日に山元町農産物直売所「夢いちごの郷」を再オープンしました。

「菅野園芸」、「夢いちごの郷」、どちらも菅野さんの行動力によって、このように早い再開を成し遂げたのは驚きです。

「たくさんの人に助けてもらった」と話す菅野孝雄さん

「ここまでくるには……本当にたくさんの人に助けてもらったから」と菅野さんはしみじみ話し始めました。
「震災後はすぐに自衛隊が入って、がれきを撤去してくれた。そのおかげで7月いっぱいでがれきは無くなったんだ」
「それに合計では1000人を超すボランティアの人が、沖縄や北海道、熊本や鹿児島など全国から来て手伝ってくれた。今こうしてあるのは手伝ってくれただけではなくて、励ましてもらったりした応援があったから。その人たちが背中を押してくれた。それがなかったら、もしかしたら今のようにやってなかったかもしれない。本当に助けてもらったんです」
しかしそれも、菅野さんや菅野さんのご家族が「いちごでやっていく」という強い気持ちでいち早く動いたからこそ、協力者が現れたに違いありません。


「震災の後の事は考えたくないくらい全部
大変だった。着たきりスズメみたいに身一つで逃げた。……でも今はいちごの事だけ考えていれば良いから楽なのね」
そう語る明子さんは、いちご農園の再建に無くてはならない方。菅野さんと共に力を尽くした心強い存在です。


現在は震災前と同じように、家族全員でいちご農園を稼働している「菅野園芸」。
頼もしい後継者の孝明さんと、明るいまろみさん。そして3人のお孫さんが応援しています。真ん中の9歳の女の子は、「じいちゃんを先生にしていちごを作る!」と言ってくれているそうです。
菅野さんの行動力の源を垣間見たような気がしました。

家族全員での作業は早朝からの“いちご摘み”  “パック詰め”と
毎日休み無く行われています

息子さんの菅野孝明さんと奥さんのまろみさん

「今まで大変だったけどうれしかったのは、前のお客さんが、震災後様子を見に来てくれたことがあったのね」
「心配して現場に来たけど何も無いでしょう。人に尋ねたり探したりして家まで来てくれた。その時『生きてたんだ』と言って泣いてもらった。生きてるだけで泣いてもらった経験はなかったから、本当にうれしかった」
菅野さんはその時、お客さんとのつながりができたと初めて実感できたそうです。

そんな菅野さんのこれからの目標は、生産も販売も、震災前まで回復させること。そのためにはまだまだ予算的に厳しいのは否めません。町と連携しながらも、さらなる応援が必要です。現在もその方法を模索中だそうです。



平成23年、大震災直後のいちごの出荷はクリスマスの直前。
何も無くなった土地から奇跡のようによみがえったそのいちごは、いつしか「復興いちご」と呼ばれるようになりました。菅野さんのいちごは、山元町の復興を願う皆さんの心を照らす“希望の星”になったに違いありません。
また菅野さんの、今まで助けてくださった皆さんへの感謝の思いも込められているそのいちごは、これからも山元町の方々を、そして私たちを勇気づけてくれるでしょう。

ありがとう! 復興いちご!





【菅野園芸・夢いちごの郷「いちご狩り」のお知らせ】

期間/2月〜6月
  【菅野園芸】(土・日・祝日)10:00〜15:00
   団体(10名以上)の場合は平日も受付  〈※ 要予約 ・個人は予約不要〉
  
  【夢いちごの郷】(毎日営業)9:00〜16:00
   ※団体(10名以上)は要予約 ・個人は予約不要


入園料金/30分食べ放題
  〈2月〜5月上旬まで〉※ 団体は100円引き
    大 人 1500円
    子ども   700円
  〈5月中旬〜6月末まで〉※ 団体は100円引き
    大 人 1300円
    子ども   600円

※ 申し込みは直接「菅野園芸」か「夢いちごの郷」までお早めにどうぞ。


「菅野園芸」
〒989-2202 山元町高瀬字北沼71
電話・FAX/0223-37-1008
または携帯/090-5237-8119

山元町農産物直売所「夢いちごの郷」 
〒989-2203 山元町浅生原字下宮前94-1
電話・FAX/0223-37-1115


☆「菅野園芸」の震災後の取り組みは、学校図書館用書籍「語りつぎお話絵本」(全8巻)〈学研〉の中の第8巻に「花のいちごハウス」として掲載されています。
書店には並びませんが全国の学校図書館や公営図書館などで閲覧することができます。
またAmazonで購入することができます。

(取材日 平成25年11月21日)