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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年9月9日月曜日

2013年9月9日月曜日13:43
YUUです。

先月、ココロプレスでは、名取市閖上で深刻な津波被害に遭った「宝船浪の音(ほうせんなみのおと)」の有限会社佐々木酒造店の、仮設工場での酒造り再開までの軌跡を紹介しました。

揺るがぬ酒造りへの思い~佐々木酒造店・前編(名取市)
http://kokoropress.blogspot.jp/2013/07/blog-post_1160.html
揺るがぬ酒造りへの思い~佐々木酒造店・後編(名取市)
http://kokoropress.blogspot.jp/2013/07/blog-post_30.html

東北地方の各地で地域と密接に結び付き、地域経済の担い手となってきた酒造業。
東日本大震災では、宮城、福島、岩手各県の由緒ある多くの蔵元が被害を受けました。

宮城県では、津波によりポンプ、モーター、コンプレッサー等の機械類が海水に浸かり、ほぼ全滅してしまった酒造場だけで、3場を数えました。酒蔵が全壊してしまった佐々木酒造店と、「浦霞」の株式会社佐浦本社蔵、「墨廼江(すみのえ)」の墨廼江酒造株式会社の3場です

宮城県酒造組合の調べによると、組合員となっている25蔵元・27製造場(実稼働26製造場)のうち、全ての酒造場が震災の被害を受けたそうです。11の蔵元が全壊および大規模半壊の被害を受け、製造設備(社屋や店舗などを除く)に限定しても、何らかの改修工事(破損設備を呼び機械類の更新等を含む)を行わずに済んだ製造場はありませんでした。



東日本大震災で損壊し、昨年建て替えられた宮城県酒造会館
宮城県酒造組合が入居し、技術指導の拠点となる醸造試験場
利き酒会などのイベントを開く多目的ホールを備えている


そうした中、日常の業務で各蔵を訪れて酒造りのアドバイス、技術指導なども行っている宮城県酒造組合の伊藤謙治さん(参事・技術担当)、宮城県産業技術総合センターの食品・バイオ技術部の橋本建哉さん(上席主任研究員)、小山誠司さん(研究員)が発起人となり、津波被害が甚大だった3場の酒造場に対し、支援の呼び掛けを行いました。

「私たちは、日常の業務で宮城県内それぞれの酒蔵に対して技術支援、コンサルタント業務的なことを行っています。3.11後、橋本さんとともに、沿岸部から内陸部まで各蔵を回りましたが、巡回すればするほど想像以上の被害の甚大さを目の当たりにし、胸を痛めました。日頃、宮城の酒造りの巡回コーチのように各蔵に伺って、それぞれの会社とお付き合いのある私たちに何かできることはないか、と考えて支援を呼び掛けました」(宮城酒造組合・伊藤謙治参事)

宮城県産業技術総合センターの橋本さんは、次のように話してくれました。

「行政機関の技術指導というと「従うべき通達」のようなイメージをもたれるかもしれませんが、決してそんなことはなく、各社の個性を伸ばし、目標とするもの、考えを聞いたうえで、技術的なアドバイスを行っています。2008年の岩手・宮城内陸地震で社屋や蔵が被害にあった県北部地域の蔵元さんの被害も大きかったですが、機械類が浸水してほぼ全壊する津波被害を受けた蔵元さんは、操業再開が危ぶまれるような状況でした」

伊藤さんは現職に就く以前に、東京都北区王子にあった旧醸造試験場で酒造技術を学んだ経験があり、その当時、ともに学んだ鹿児島県工業技術センターの瀬戸口眞治食品工業部長、兵庫県の酒造会社、櫻正宗株式会社の原田徳英執行役員などに各地の窓口として協力してもらい、支援を呼び掛けたのだそうです。

「醸造試験場時代からお付き合いのあった瀬戸口さんや原田さんには本当に言葉に尽くせぬほどお世話になりました。原田さんは、ご自身の会社が阪神淡路大震災による被災経験があり、その教訓をもとに会社の方で備えていた機械をピカピカに磨き上げて、マニュアルもきちんと用意した状態で、たくさん寄贈していただきました」(伊藤さん)

また、鹿児島県工業技術センターの瀬戸口さんの呼び掛けのおかげで、清酒会社ではない、現在、鹿児島の一大産品として全国に知られる県内の各焼酎メーカーからもたくさんの機械類の寄贈があったそうです。

人の縁、絆(きずな)の大切さを痛感させられるエピソードですが、物資面の支援だけではなく「声を掛けてくれてありがとう」、「酒造りを辞めないでください」とメーセージを込めて、高額な機械類を支援企業負担で送付してくれたそうです。


酒造りに欠かせない機械類の支援とともに
さまざまな支援者、支援企業の心を打つ激励の言葉、気配りに感謝したいと話す
宮城酒造組合 伊藤謙治参事(技術担当)

伊藤さんは、さまざまな形の復興支援に感謝するとともに、日々、より良い宮城の酒造りにまい進し、今後、他地域で災害があったときには力になりたいと話します。

米どころの宮城県は、全国的にみても類を見ない高品質な日本酒のブランド産地を形成しています。

宮城県の日本酒は、吟醸酒、純米吟醸酒などの名で知られる特定名称酒(高品質酒)の比率が85%以上と、他県に較べて群を抜いて高いのです。全国平均でみると、清酒産業において、特定名称酒の生産比率は約30%ほどです。


特定名称酒、高品質酒というだけだと、日頃「あまり日本酒は」という向きにはちょっと分かりにくいかもしれませんが、端的に言えば、米を贅沢に使用する日本酒のことです。吟醸酒は精米歩合が60%以下になるまで米を削りますし、純米酒は米だけを原料とします。

それに対して一般酒は、米を節約するお酒とでもいえば、対比が分かりやすいでしょうか。普通酒は平均4割程度醸造アルコールが添加されています。


宮城県酒造組合では27年前の昭和61年に、「純米酒宣言」をしました。

単に稲作が豊かで酒どころとアピールするのではなく、何を造るかを明快にし、品質重視による「酒どころ宮城」をPRすることにしたのです。


宮城酒造会館の正門前には
25の組合員各蔵を代表するお酒が陳列されている
  
純米酒宣言は、宮城県内の各蔵元、酒造組合の先進性を示す画期的な決断だったともいえるでしょう。

「ササニシキで美味しいお酒を造るのはたいへんだ、というような声も聞かれた中で、各蔵元さんは試行錯誤を重ね、高品質で美味しい純米酒造りに取り組んできました」

国税庁の資料によると、震災が起こった2011年に日本酒消費量は久しぶりに底打ちをみて、回復基調に転じました。その要因の一つに被災地支援ニーズがあったことは明らかでしょう。なかでも宮城県の出荷伸び率は高く、震災翌年の2012年度も好調が続きました。

個人的な推測ですが、この現象は、被災地支援をきっかけに全国のユーザーが「みやぎの酒」の品質を認めてくれた証明ともいえるのではないでしょうか。

被災地の地場産品を震災支援の一環として注文する。それだけでは、出荷の伸び率は短期で終了してしまします。最初は震災支援で注文したとしても、そのことが「みやぎの酒」を知るきっかけとなり、一定数のリピーターを得たことが、宮城県の2011、12年の継続した日本酒出荷量の増加につながったと考えるのが、自然のような気がします。


宮城県内の純米酒が揃う「きき酒会」
各蔵元の個性が感じられる商品を飲み比べできる


宮城県酒造組合では、県内のそれぞれの蔵が研鑽を積んで醸した高品質のお酒をPRするために、定期的にきき酒会を開催しています。

このきき酒会に参加するには、「日本酒サポーターズ倶楽部・みやぎ」に入会する必要がありますが、入会はいたって簡単。20歳以上なら誰でも入会資格があり、入会金、年会費はありません。上記名称のHPにアクセスし、無料登録するだけです。

会員になると、宮城県酒造組合が開催する各種イベントがメールで告知され、きき酒会をはじめとするサポーターズ倶楽部限定イベントやセミナーに参加することができます。

心を打つ復興支援のエピソード、震災による県内各蔵の被害状況や復興への歩み、「純米酒の県・みやぎ」を掲げる酒造組合の情報発信、日常の取り組みについて、前述の伊藤さん、橋本さんに話しを伺ったあとに、酒造会館多目的ホールで開催されていた、きき酒会の様子をのぞいてきました。
  
真剣な様子は日本酒ファンならでは
22社・93点の純米酒が並べられた様子は壮観です。

参加者は会場入り口で「きき酒会展示目録」と「きき酒用スチロール・カップ」を受け取ります。

あとは、会場内の展示酒の前に置いてあるきき猪口の中から、きき酒に必要な分量の酒を各自が注ぎ、マイペースできき酒を楽しみます。


展示酒の前にはきき猪口が用意されている

タイプ別に並べられた陳列台の記号で目録と照らし合わせて楽しめる趣向

写真右手前の「墨廼江(すみのえ)純米吟醸蔵の華」は、
展示酒目録によると、酸度1.7。爽やかな果実様香りハナヤカタイプ
キレがあり、冷やして、または常温で飲むのがお薦めとある


このきき酒会の特徴的なところは、展示目録がきちんと用意されていて、タイプ別にお酒が展示されていることです。

「酸度順」に展示酒が並べられる


今回のきき酒会の展示酒は、酸度順に並べられていました。

伊藤さんの説明によると、酸度はお酒に「キレ」や「しまり」をもたらすものだそうです。

展示酒の目録には、お酒に「やわらかさ」や「奥行き」をもたらすアミノ酸度やグルコース濃度の表記も明示してあり、それぞれのお酒の香りのタイプからお薦めの飲み方タイプまで紹介されています。

「香りのタイプや味の濃さ、やわらかさなどをタイプ別表示することは、宮城県酒造組合で行っている日本酒の商品情報提供、宮城県推奨清酒の取り組みの一環でもあります。平成19年11月より酒造組合のHP上で情報提供サービスを行っていて、推奨清酒は3カ月ごとに申請して、推奨評価委員会による官能評価を受けなければなりません」

日本酒のラベルには、細かな規定にのっとった商品情報が記載されていますが、これは、基本的に製法の概要を記すハードの情報です。

伊藤さんによると、専門家、酒造業関係者でもラベルの情報だけで、飲酒経験もない商品の中身、味わいを推察することは難しいそうです。

前述の橋本さんは、「宮城県における日本酒の商品情報提供への取り組みについて」の論文をまとめています。そのなかで、「どのような味」なのかを知るためには香りのタイプ、味のタイプなど、ソフトの情報を開示したうえで、表現しきれない部分を「どのように造られたのか」のハードの情報で補完することが大切だと指摘しています。


きき酒会で談笑する
宮城酒造組合 伊藤(左)さんと
宮城県産業技術総合センター 橋本(右)さん

他県に先駆けて高品質の酒造りを掲げる「純米酒宣言」を行ったことで、宮城の清酒は一定の認知度、評価を得ました。一方で、その努力や試みが全国の消費者に対し十分に浸透したとは言い切れないジレンマもありました。

その理由の1つと考えられたのが、お酒が好きな人でさえ分かりにくい、味のタイプや香りのタイプに関する情報開示、つまり、ユーザーが求める美味しい日本酒選びに必要な商品情報の少なさでした。

宮城県酒造組合が定期的に開催するきき酒会や、宮城県推奨清酒の情報提供サービスは、ユーザーが求める美味しいお酒、それぞれの蔵の個性を情報発信して、みやぎのお酒、ひいては日本酒の実力を問う、高品質の酒造りに以前から取り組んできた宮城県の各蔵元ならではの試みです。

震災支援を1つのきっかけとして、全国に宮城の力、「純米酒の県みやぎの実力」をこれまで以上に発信していくことは、これからも継続していかなければならない復興の力の大きな源泉となるにちがいないと、今回の取材を通じて再確認しました。



宮城県酒造組合
みやぎの酒選り取りナビ
http://www.miyagisake.jp/


(取材日 平成25年8月2日)