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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年9月27日金曜日

2013年9月27日金曜日13:28
YUUです。

地鳴りとともに間髪を入れずに発生した大きな縦揺れ。

「これは、ちょっと普通の地震じゃない」との思いが頭をよぎるも、考えを巡らす間もなく、これまでに経験したことのない暴力的な横揺れが始まる。

いつまで続くのか。数分が数十分に感じられた驚愕と絶望の時間。

3.11、東日本大震災では、大勢の人々が、経験値では計りようのない地震の揺れと恐怖を体験しました。その時間、約200秒以上。平成7年の阪神大震災、平成16年の新潟中越地震は20~30秒の揺れだったそうですから、約10倍超です。途方にくれるほどの長い時間、桁外れの揺れが続いたと感じたのは、決して幻想でも、平常心を失っていたからでもありませんでした。

過去の地震、想定地震との比較でも規模、時間ともに桁外れだった地震は、安全神話のあった原子力発電所の被災や広域の巨大津波を引き起こしました。その複合被害があまりにも甚大だったため、これまでの大地震では、被災地外の人々が真っ先に目を向けた地震そのものによる建物の倒壊や家屋の被害を知る機会を失わせるほどでした。

「宮城野バラ工房」梶農園のハウス内
大輪系の白バラ・アバランチェを主力品種として、30品種、約6万本のバラが年間通じて栽培されている

名取市高柳地区にある「宮城野バラ工房」梶農園は、生産面積3000坪。年間生産本数約100万本を数える宮城県内有数のバラ農園です。

生産しているバラの品種は、看板品種である白バラ・アバランチェをはじめ、ブルゴーニュ、スイートアバランチェ、リメンブランスなど、大輪系のバラを中心に30品種にも及びます。

東日本大震災では津波に飲み込まれる被害こそ避けられたものの、16棟を数えるハウス栽培施設や、栽培中のバラは甚大な被害を受けました。

梶農園の丹野敏晴さんは、震災当時を振り返って、次のように話します。

「高柳という地名の通り、少し高台にある地域なので、津波の被害はギリギリ避けられました。海側の高速道路が防波堤となり、そこを越えてきた津波もちょうど脇までで止まりました。しかし、ハウスの3分1強のベッドが倒れ、栽培中の6万株全てが被害を受け、全体の約3分の1の2万株を超えるバラは再起不能、全滅してしまいました」

震災直後は家族と従業員の安否確認が最優先で温室の被害調査どころではなく、遮断されたライフライン復旧の見通しが立たない中で、現在(いま)を生きる対応だけに追われたそうです。

幸いにも、家族、従業員ともに無事を確認できましたが、従業員の中には閖上地区や亘理町在住の方がいて、家族が津波に流される不幸に遭われた方もいました。丹野さん家族も従業員も、生活する家屋が被災し、さらに深刻なガソリン不足なども重なって、バラや温室設備の被害は気になるものの、数日間は身動きが取れない状況が続いたといいます。

高品質のバラ栽培に欠かせない温度・湿度管理を可能にする
施設園芸用ヒートポンプ


バラ栽培は室温を18℃と高めに保つ必要があり、暖房による温湯や温風で温室内全体を加温するのが一般的です。

そのため、東北のような寒冷地でバラ栽培を行うには、非常に暖房コストがかかります。原油価格が高騰して燃料の重油価格が上がれば、そのしわ寄せは直ちに栽培農家を直撃します。

そこで、梶農園では燃料コストの削減と、温度・湿度管理が非常に重要な高品質のバラ栽培のために、2007年より施設園芸用のヒートポンプを導入しました。最初は試験的に4台導入し、その結果、高い効果が得られたため、震災時には24台のヒートポンプ(上・写真)が各温室内で稼働していました。

「バラ栽培は寒さを避けなくてはなりませんが、バラは暑さに弱い品種も多いんです。梅雨時期と夏は除湿、夜間冷房が欠かせません。高品質のバラを安定して栽培するには、年間を通じてきめ細やかな温度・湿度管理が必要になります。 ヒートポンプを導入したことで、CO2排出量、農薬使用量の削減にも繋がりました」

丹野さんの説明によると、生育に与える影響など各種データの収集・分析を行い、季節に応じた運転方法を確立することで、ヒートポンプによる効果は導入後、経験を重ねるほどに高まっていったと言います。

「バラ栽培は日進月歩の世界なんです。次々と必要に迫られる新しい技術への設備投資は経営負担も大きいですが、需要のパイは限られています。高品質生産や生産性の向上を図る競争に取り残されると、それこそ生産者としての基盤自体が崩れてしまう。ヒートポンプの導入は、重油の高騰に対する対応策に加え、環境分野にも良い効用があると考えて、設置が全国的に広がりを見せる前の早期の段階で決断しました」

バラ栽培における高品質生産、生産性の向上を実現するヒートポンプですが、大まかに例えればエアコンのようなものです。電気が遮断されれば動かすことはできません。他にも天窓の開閉、井戸水のくみ上げなど、電気が使えなくなる設備はたくさんあります。近代的な農業生産、温室栽培の現場では環境制御の施設整備を進めていればいるほど、その影響が大きいことを東日本大震災は思い呼び起こすことになりました。


ハウス内の奥行を見渡し、ハウスの広さ、規模を確認すると、
両端に繋がる栽培用ベンチの倒壊のひどさが推察される

つぼみが開花し、採花が近づいている美しいバラ
大地震により多くの出荷直前のバラも大きな被害を受けた


ハウス栽培と一口に言ってもその規模や栽培品目、品種はさまざまです。

梶農園のハウス内を案内してもらい、その奥行、全容を見渡すと、巨大地震により、その大部分の栽培ベンチが倒れ、生い茂るバラの多くが駄目になってしまった様子がいかに凄惨なものだったかが推察されます。

「ひっくり返ったベンチをもとに戻す作業は、家族と従業員だけではとても無理です。交流のある山形の同業者の方などに応援に駆け付けてもらい、何とかもとに戻すことができました」

震災から5日後、電気が通ってようやく復旧作業に着手したものの、震災によりバラの出荷を停止したため、しばらく収入が途絶えることは確定しています。

大地震が起こった3月は、花の消費動向が最盛期を迎える時期です。皮肉なことに、花き市場でバラの相場が年間通じて最も高いのは例年、3.11の週なのだそうです。

「婚礼と人の移動が花の消費動向を左右します。3月は、その両方のピークが重なる時期なんです。桜咲く4月は花より団子の例えじゃないですが、むしろ需要は落ち込みます」

花き栽培の生産者にとって1年間でもっとも稼ぎ時の収入がなくなる。

これは、大変なことです。

例えばウナギの養殖業者なら、土用の丑の日の前後に出荷ができなくなるようなものです。


「栽培方法のトレンドが年々様変わりするバラ栽培を生産農家として継続していくためには、設備投資の繰り返しは避けられません。いい品種が出たらいち早く栽培する。実効性が高いと思ったら苦しくても設備投資。借金のない栽培農家なんていないと言っても過言ではないでしょう」

収入は途絶えても、月々の支払いは継続します。


「行政からの復興補助金に希望をつないではいました。ただし、今回の震災はあまりも被災地域が広域で、私自身の農園も非常に被害は大きかったけれども、近隣では津波により、ハウスごと流されてしまったような農家もある。補助金の割合や支払い時期、優先順位などの決定に時間がかかるだろうなと、不安を感じてもいました」

丹野さんは花き組合の副組合長として、大勢の生産者の心配の声を聞く立場にもありました。

「査定された被害総額の何割の補助が受けられるのか、建物や設備の損害だけではなく、生産物の損害は認められるのか。生産農家のほとんどの内情が厳しいだけに、後継者がいない場合は廃業の選択も含めて検討せざるを得ないケースもありました」

梶農園ならではの切り花直前の開花し始めたバラ
つぼみの切り花は花持ちがいいというのは誤解で
開花し始めのタイミングを見計らって収獲した切り花は
満開まで咲ききり、花保ち期間も断然長い


花の女王とも形容されるバラは、ヒートポンプ導入の経緯で紹介したように非常に生産コストの掛かる花です。

大地震は、切り花、出荷直前だった多くのバラも含め、2万本のバラを全滅させました。

「国の補助の概要が決まる以前に宮城県と名取市の方から、これまでの災害では認められることが少なかった花そのものの被害も補助金の対象となると通達があったので、その点は非常にありがたいと思いました」

とは言え、補助金の見通しが確定するまで、復旧作業を怠るわけにはいきません。

栽培ベンチをもとに戻す作業こそ、大勢の助っ人のお世話になりましたが、その後は家族と従業員で懸命に復旧作業に従事したといいます。


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2011年の4月中旬、震災後、ようやく初出荷がかないました。

その時の様子を、後継者の丹野岳洋(たけひろ)さんは、こう振り返ってくれました。

「ベンチが若干ずれただけの被害で済んだバラをなんとか出荷することができました。もちろん、品質を落としたものは出荷できませんので、きちんとした状態のバラだけです。通常100~200ケースの出荷のところを、5ケースほど、なんとか出荷したのを覚えています」

梶農園の看板品種、大輪の白バラ・アバランチェ


震災後、出荷量がほぼ前年対比で元に戻ったのは、10月頃だったといいます。

「被災地生産ということで、花き市場でも、これまで引き合いがなかったところからお声掛けがあったりしたのは非常にありがたいことでした。ただし、新しいお取引先から梶農園のバラと指名買いを継続してもらうには、信頼を得る品質の生産を続けていくしかありません。少しでも妥協して出荷すれば、すぐお客さんに伝わってしまいます」

実際に、日本一の規模を誇る大田市場の花き部で、その品質を見込んだ指名買いが入ることが珍しくない梶農園の内実は、震災の爪痕が深く食い込み、治癒したとはとても言い難い状態だといいます。


「震災から2年が経過し、生産現場の外面上はほとんど元通りに見えるかもしれませんが、品種構成や、株の更新など細かい部分は現在も完全に元に戻せたわけではないんです。震災前の状態とほぼ同様の中身に戻せるのは、最低でもあと5年程度はかかると思います」(岳洋さん)

現在のバラ栽培はかつての土耕栽培ではなく、栽培のための培養液が染み込みやすいスポンジ状の人工培地を使用するロックウール(溶液)栽培が主流で、梶農園も採用しています。

この栽培方法では、3年から4年ごとに植え替えていくことが高品質のバラ造りには必要なのですが、震災により、植え替え時期の計画や順番が大きく狂ってしまったのだそうです。


信頼第一、品質第一のバラ造りを継続していくことが
農園の再興、発展、地域の復興につながると話す
梶農園の丹野岳洋さん

梶農園は震災により、バラ栽培農家としての基盤が揺らぐほどの大きな被害を受けました。

マグニチュード9.0。史上4番目といわれる大地震によってです。

東日本大震災は津波被害の傷跡があまりにも凄惨で、大き過ぎたため、地震そのものによる施設や生産現場の被害実態、復興への歩みが報じられる機会が少なくなってしまいました。

個人的には、そうした側面は否定できないと思っています。



直売所ではさまざまなフラワーアレンジなども受け付けています。
大きな花屋さんでもまず揃わない多品種、高品質のバラが
ちょっとびっくりするぐらいの低価格帯で販売されています。



なお梶農園では、ハウスと隣接した国道沿いにバラの直売所を営業しています

宮城県の産業振興事務所にコンサルティングを頼んだ時に「ちょっと安すぎるんじゃないの?」と、疑問を投げかけられたほどの価格帯で、高品質、採花時期は絶妙、花屋には揃わない多品種のバラが販売されています。

興味のある方は下記ホームページで。


宮城野バラ工房 梶農園 
http://kaji-rose.jp


(取材日 平成25年8月1日)