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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年7月30日火曜日

2013年7月30日火曜日9:25
朝のニュースを聞いてるだけで、げんなりしちゃった7月初旬の猛暑はどうしたんでしょう。


今年、7年ぶりにオーソドックスな扇風機を買い替えたものの、ほとんど使用していないYUUです。


クーラーの冷風は下降し、床に集まるので、扇風機で室内を循環させる。体がすぐ放出してしまう水だけを飲むのではなく、スポーツ飲料など塩分を含んだ飲み物を体内に吸収することで、熱中症予防になる。

これまで、「自分は大丈夫」と多数の人が等閑視していた暑さ対策も、温暖化、都市高温化、猛暑の夏が続いてマスメディアが揃って啓蒙したためか、相当に認知度が高くなったような気がします。


暑さ対策の工夫は、個人や家庭内だけのことではありません。


ものづくりの現場では、暑さ対策、温度管理が人間だけじゃなく、商品そのものの致命傷につながることもあるため、一般のオフィスや個人の家庭以上に、さまざまな対策が講じられています。



佐々木酒造店の仮設工場内
断熱効果に優れるウレタン材で壁面を覆うことで夏の酷暑を避けることができる


上の写真の壁面の様子がお分かりでしょうか。

タンクの深緑とコントラストを描くモスグリーン壁面。工場などの壁ではあまり見かけない色合いです。

実はこの壁は、断熱効果に優れるウレタン材で覆っているために、シルバーなどのよく見かける工場の壁面とは様相が異なっているんです。


紹介が遅れましたが、この場所は、名取市下余田の名取市復興工業団地内にある佐々木酒造店の仮設工場です。

創業明治4年、名取市閖上地区で連綿と酒造りを続けてきた佐々木酒造店。名取市閖上1丁目にあった酒蔵と店舗は3.11の震災で壊滅的な被害を受けました。同社の佐々木洋専務が話す震災当時の生々しい様子、被害の状況は前編の記事で紹介しました。

2013年7月22日月曜日
揺るがぬ酒造りへの思い 佐々木酒造店・前編(名取市閖上)
http://kokoropress.blogspot.jp/2013/07/blog-post_1160.html



佐々木さんは、煙突が折れたり、がれきで埋めつくされてしまった蔵の様子、変わり果ててしまった周囲の風景を目の当たりにしても、酒造りを放棄する気持ちにはならなかったと言います。

ただし、現実に酒造りをするために準備を始めると、さまざまな懸案事項が出てきました。

「まず、震災以前の酒造りに必要な設備が全て使用できなくなってしまいました。新しく購入するとなると、莫大な費用がかかります。また、実際に酒を仕込む場所もない。蔵の現地再興は目標ではありますが、数年でめどが立つ周辺環境、状況ではありませんでした」


閖上地区は、震災より2年が経過した現在も復興計画の骨子となる基本案が再検討されるなど、国の事業認可、事業の開始時期は定まっていません。閖上で再び居住を希望する人々、戻らない意向の人々、それぞれの住民のヒアリングを行ったうえで、双方のコンセンサスを得た復興計画を選定、実施するために時間が掛かっています。


「当面、元の蔵の場所での酒造り再開は不可能と判断しました。そうした状況下で、中小企業基盤整備機構(以下・中小機構)が仮設施設整備事業の一環として、名取市内の下余田に復興工業団地を整備することになったんです。その一角を工場として、申し込みました。この場所を仮設の蔵として、なんとか酒造りを再開したいと考えたんです」


中小機構の仮設整備事業とは、被災地の市町村の要請に基づいて、各市町村が用意した土地に、それぞれの自治体と協力しながら、仮設店舗、仮設工場などを共同で整備し、事業再開を希望する被災地の中小事業者等に入居してもらうというものです。

仮設施設は、市町村に一括貸預(たいよ)された上で、被災した中小事業者等に無償で貸与されます。原則的に整備した施設は事業開始より1年以内に市町村に無償で譲渡されます。


「名取市復興工業団地への入居は決まったものの、当初は、工場に置く設備が何もない状況でした。震災の翌年には、奇跡的に無事だった搾りたての生原酒を震災復興酒として出荷したり、無事だったタンクより汲み出した純米酒を、仙台市の森民酒造本家に依頼してろ過、瓶詰めし、『閖』(ゆり)と命名して、出荷することができましたが、仮設工場で実際に生産を開始するためには、酒税法や食品衛生法にかかる諸手続きが必要でした。また、それをクリアする生産設備や環境を整えなければなりませんでした」



東灘の老舗の蔵元から寄贈を受けたスチームクリーナー
ボイラーで作り出した蒸気をきれいな蒸気にします

 

仮設工場は、酒蔵として必要な設備が整っているわけではありません。上の写真はボイラーで作り出した蒸気を蒸米に適したきれいな蒸気にするスチームクリーナーです。酒造りを行うには、こうした専門的な設備が幾つも必要になります。


「スチームクリーナーは神戸の東灘区の老舗の酒蔵より寄贈していただいたものです。他にも宮城県内の蔵元さんや鹿児島の著名な焼酎の蔵元さんまで、さまざまな方々から支援の手を差し伸べていただきました」


灘の老舗の蔵元や、鹿児島の焼酎メーカーと佐々木酒造店とは、震災以前に特別な付き合いはなかったといいます。

佐々木さんが、宮城県酒造組合や宮城県産業技術総合センターに酒造りを継続する意思を伝えたところ、全国の醸造家に声掛けをしてもらい、各方面から、酒造りに必要な設備の寄贈を受けられることになったそうです。


「東灘の蔵元さんからは、『蔵や地酒はその土地の文化の1つ。土地の文化は町を形作る大切な要素。文化を失えば町も消えていってしまう。それでも焦ることはありません。無理をして継続できない仕事の仕方をしてはやる意味はありません。今できることを少しずつ積み重ねましよう。それが蔵や町の復興につながります。同じ醸造家、被災を経験した蔵元として応援しています』と、ありがたい励ましの言葉をかけていただきました」 



鹿児島の焼酎の蔵元が寄贈した瓶詰めの機械


上の写真は、酒を瓶詰めする機械です。

鹿児島の焼酎メーカーから寄贈されたものだそうです。

日本酒と焼酎。醸造酒と蒸留酒。普段は微妙にジャンル分けされてしまうことも多いと思います。近年の焼酎、芋焼酎の一大ブームは、東北に数多い日本酒の蔵元にとっては、ある意味、脅威だったともいえるでしょう。

この機械を寄贈したメーカーは、焼酎ファンなら、すぐ銘柄が思い浮かぶ蔵元さんです。日常、桜島と対峙して酒造りをしていて、地震や津波による被害は人ごととは思えない、と支援の手を差し伸べてくれたそうです。


「この瓶詰めの機械は、業績を伸ばしてくれた縁起の良いものだから、この機械を使って頑張ってくださいと激励されました。まだ、鹿児島までご挨拶にも伺ってないですが、本当にありがたいことだと思っています」

宮城と鹿児島。距離も離れているし、造っているお酒の種類も違いますが、同じく海と対峙して国酒を醸す者同士のつながり、心遣いが、震災後、2年越しに酒造りを再開しようとする佐々木さんに大きな力を与えたことは確かのようです。


佐々木酒造店・佐々木洋専務
「復興とは継続すること」


「復興とは継続すること」

閖上の地に根づいて酒造りを続けてきた佐々木さんの復興に対する思いは、自身の仕事と地域の再興が重なりあっています。

日本各地の歴史ある酒蔵は、ほぼ例外なく、地域との共生によって酒造りを続けてきました。


近年、地酒銘柄として販路を拡大しているような蔵元も、やはり、祝儀にこの銘柄のお酒は欠かせない、というような地元での支持や愛着に支えられている側面はいまだに大きいと聞きます。

震災後、佐々木酒造店にとっての販売経路は、地元閖上地区を中心に大きく遮断されてしまいました。それでも、今年の年頭には、念願の震災後初となる蔵出しを実現しました。

「宮城県内の蔵元は内陸部の蔵も含めて、震災により大きな被害を受けました。厳しい環境下、他の蔵元さんが頑張って酒造りを再開しているなかで、昨年は蔵出しすることができず、歯がゆい思いでした。本当に一からのスタートとなりましたが、県内の各方面からだけじゃなく、全国からさまざまな形で励ましていただいたので、何とか形にしたい、蔵出しを実現したいという思いは強かったですね」



震災後、初の蔵出しを実現した「宝船 浪の音」は、閖上さいかい市場で販売している
本醸造「しぼりたての生原酒」、「宝船 浪の音」
純米酒「宝船 浪の音 閖」


旧店舗の周辺は、現在も更地のままの土地が多い状態です。震災以前のように、蔵と隣接する店舗での販売を再開するには、まだまだ時間がかかるでしょう。

今年度蔵出しした酒は、名取市美田園にある閖上さいかい市場内の仮設店舗で販売しています。

「浪の音待ってたよ。とお声がけしていただいたお客さんの声が何よりうれしかったですね。地元でうちの酒に親しんでいただいていた方は、被害状況もつぶさに分かるわけですから、酒造りを再開するといっても、大丈夫かな、と思われるのも無理はなかったと思います」


酒蔵は全壊。それまでの設備は全く使用できない状態でした。

仮設工場への入居手配はついたものの、酒蔵としての機能を整備するためにはまず温度管理ができるようにしなければなりません。しかし、高額な設備を導入したとして、少ない生産量で設備設置費や電気代をペイできるかなど、いくつもの、現実的な問題が立ちはだかりました。


「仮設工場でお酒を造っている蔵は、多分、全国でうちだけでしょう。今できること、無理せず身の丈にあったやれること、われわれの酒造りにマッチする環境、酒造りの温度を管理するための方策をいろいろと考えました。ここでも酒造組合や産業技術総合センターの先生方の協力を頂きながら、最終的に工場内全面を発泡ウレタンで覆う対応策を講じることができました。費用対効果は抜群です」



大地震後の大津波を蔵の屋上で目の当たりにし、その後、変わり果てた蔵と周囲の凄惨な状況を肌で感じても揺るがなかったという佐々木さんの酒造りへの思い。

閖上地区の復興と蔵の再興に対するぶれない気持ち、「また酒を造る、閖上で造るんだ」という強い復興への気持ちが、全国からのたくさんの応援にもつながり、仮設工場を整備し、酒蔵としての機能を整えることで、震災後、途絶えていた蔵出しも実現しました。


「復興とは継続すること」と記した佐々木さんの思いからは、歴史ある海辺の街「閖上」の再興と閖上とともにあった宝船浪の音を故郷で仕込むぞ、という決意と覚悟を感じました。



宝船 浪の音 醸造元
有限会社 佐々木酒造店
仮設店舗 宮城県名取市美田園7‐1‐1(閖上さいかい市場内)
       ℡ 022‐398‐8596

仮設工場 宮城県名取市余田中荷440‐1(名取市復興工業団地B棟)
       http://www.naminooto.co.jp


(取材日 平成25年7月2日)