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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年7月11日木曜日

2013年7月11日木曜日13:30
料理の先生で有名な服部幸應(ゆきお)さんていますよね。料理学校を経営されていて、マオカラーを世に知らしめた方です。

相当昔ですが、服部さんのある一言が、現在も頭の片隅に残っています。

「朝食はイチゴだけでいい。私の朝食は大体イチゴだけ。それで栄養的には十分」

トリビア流に言えば、へぇ~へぇ~って感じです。

旬の季節には、朝食で山元町産のイチゴを結構食べているYUUです。


福島県との県境に位置する宮城県山元町は、同じ亘理郡の亘理町と並んで、イチゴの一大産地として知られています。

そんな山元町はかつて、ブドウの産地としても知られていました。

大正期より、家業として山元町でブドウ栽培を行い、現在まで生産、ブドウ液加工を行っている貴重な法人である田所食品を今回は訪ねました。

ココロプレスでは、以前、亘理・山元町にまたがって開催された一店逸品運動の取材で、同社の仮設店舗にお邪魔したことがあります。


一店逸品運動 (亘理町・山元町)
http://kokoropress.blogspot.jp/2012/09/blog-post_27.html


新社屋は海岸から約4km内陸に入った水田地帯に立地

れんが風の建屋は全自動充填設備を備えた新工場です。

以前の工場と隣接する自宅は、震災によって甚大な被害を受けました。

海岸から約400mのところに位置していて、津波に全てのみ込まれてしまったそうです。

「沿岸地域の震災の被害は、おおむね共通する部分があるかとは思いますが、私の自宅、工場の場合も地震そのものではなく、津波に破壊されてしまいました」

こう話してくれたのは、大正7年より作り続けられているマルタのきぶどう製造元、田所食品株式会社代表取締役の田所林一さんです。   


海岸線にほど近い旧工場の周辺に行ってみました。

原形はとどめてはいるものの、津波により工場の設備は
全て破壊されてしまった旧社屋

鉄筋のRC造だった建物は、原形はとどめています。

しかし、周囲を行き交う人はいません。

工事関連と廃棄物を輸送する大型車両だけが、幹線道路より海岸線沿いへ続く、限られた道路に散見されます。現在、この辺りは、堤防の移設工事を行っているので、一般車両で海岸付近へ向かうのは困難です。

山元町の海岸線は現在、堤防移設工事が進捗中

海岸付近の居住禁止区域は、行き交う人々も全くいない
震災以前の生活用品などが、現在も砂地に埋もれている

居住禁止区域一帯は人も行き交わず、整備されないままの道に、海岸沿いの砂地が内陸の方に侵食しています。

震災より歳月を経て、津波の被害を受けた建物の残骸部など、相当の量が撤去されたのでし
ょうが、それでもまだ、砂地の至る所に金属の破片などが埋もれていたりします。あらためて、3.11の
爪跡の深さを思い知らされます。


田所さんは、自宅と社屋、ブドウ液工場だけではなく、その周囲に2ヘクタールものブドウ畑を所有していました。

「かつては、生食用ブドウを栽培する農家でした。栽培していた品種はコンコード種といって中粒の美味しいぶどうなんですが、傷みやすい、日持ちがしないなど、市場性に合わなくなっていったんです。そこで、栽培するブドウを生食用ではなく、ブドウ液、ブドウジュースなどの加工用に適した品種にシフトしていきました」


皆さんは、山ブドウと聞いて、どんな味覚をイメージしますか?


私なんかは、まず、酸っぱいと条件反射的に思ってしまいますね。レモンなんかとも違う、渋味を感じる酸っぱさとでもいうか、うまく形容できないですが、とにかく、酸っぱいだろうな、というイメージはぶれません。

専門家である田所さんも、次のように念押ししてくれました。

「山ブドウの果肉自体は、食べて、そう美味しいものじゃないです。果肉の部分自体が少ないですしね。種と皮と言っても、言い過ぎじゃないぐらいです。普通のブドウより、山ブドウの方が酸味ははるかに多い。ところが、加工してブドウ液、ブドウジュースとして飲むと、酸味や渋味は強いですが、飲んだ後に不思議な爽やかさが残るんです」

山ブドウジュースの良さは、味わいだけではありません。

果肉が少なく、皮と種の山ブドウ。しかし、その部分にこそ、ぶどうの栄養素が詰まっています。

ポリフェノールやアントシアニンとか、近年、ワイン関係でよく耳にするブドウの栄養素は、ほぼ、皮の部分にあるそうです。  

田所食品の看板商品である「マルタのきぶどう」
マルタとは、田所の田を丸で囲んだかつての屋号から

実際に震災後も販売している看板商品の「マルタのきぶどう」を、ちょっと試飲させてもらいました。強い酸味は感じますが、後味はすっきりしています。ほのかに感じる自然の甘みが良いアクセントになっていて、酸味とのバランスが非常にいい感じです。

このまろやかな味わいは、ある程度の期間貯蔵して、熟成させることによって生まれるそうです。 

「果汁を絞ったブドウ液を、出荷まで1年以上寝かせることで、深みとまるやかさが醸し出されます。よそとの差別化をはかる意味も含めて、以前から、一度貯蔵したものを出荷していました」

3.11当時は予想しなかった激震後、タイムラグがあっての大津波。所有する自宅、工場、ブドウ畑全てが海水に飲み込まれてしまった田所さんでしたが、貯蔵していたブドウ液タンクの一部は無事だったそうです。

「貯蔵していたブドウ液は、工場の敷地内の土蔵に保管してあったんです。もちろん、元の場所に残っていたわけではなく、津波により周囲に流されてはいましたが、従業員総出でかき集めてみると、1斗缶約2000缶ほどが無事でした」

震災より2日後、田所さんが、息子さんでもある大樹専務らと避難所からがれきをかき分け工場周辺までなんとか戻ってみると、一帯は想像を絶する惨状でした。見慣れたはずの場所が、余りの凄惨な風景に様変わりしまったことを目の当たりにして、廃業することも一瞬、頭をよぎったそうです。しかし、貯蔵していた約半分のブドウ原液が無事だったことが、操業再開への決意を後押ししてくれました。

「旧工場の設備は全て駄目になってしまいましたが、大切な原液さえ残っていれば、瓶詰めの工程などは、よその飲料メーカーに依頼することもできます。家族、従業員全員が幸いにも無事だったこと、私には後継者がいたこと、そして、かなりの量のブドウ液が残っていたこと。そのうち一つでも欠けていれば、事業再開への決意は大きく揺らいでいたかもしれません」

田所さんの「復興への挑戦」は、
より良い未来の目標を見据えている

無事だったブドウ液を瓶詰めして、出荷した時にもラベルに貼った「復興への挑戦」の思い。

貯蔵していたブドウ液の半分以上が無事だったことで、2011年7月より一部業務を再開し、今年度1月には工場も新設しました。

「復興への挑戦」を順調に歩みだしたといえる田所食品ですが、まだまだ課題も多い、と田所さんは言います。

「復興対策の制度を利用することによって、従来と同程度の設備環境を整えることができましたが、原料確保の問題が残っています」

震災以前、山ブドウの生産から加工までを一貫して行ってきた田所食品では、以前のブドウ畑の代替地として、新工場近くの2カ所に合わせて約1.3ヘクタールの土地を取得しました。今年3月には、新しく造成されたブドウ畑に苗木の植樹を行いました。

ただし、本格的な収獲には約7年かかるそうです。

「当面は、残された原液での製造と、県外の契約農家から山ブドウを仕入れて対応しますが、原料を仕入れて加工する場合、生産量は震災前の6割程度まで落ち込むことになるでしょう。足りない部分を、新たな商品開発、経営の多角化でカバーしていきたいと考えています」

新工場で作業中の大樹専務

田所さんの話を伺うと、「復興への挑戦」とは、震災以前の状態に戻ることを目指すのではなく、より良い未来へ到達することこそが目標なのだという強い決意を感じます。

「これからは、山ブドウだけではなく、地元特産のイチゴやリンゴを使ったジュースやピューレなどの製造も行っていきたいですね。特に、イチゴジュース製品化の実現は、大きな夢です」


百貨店のイートインコーナーなどには、当たり前のようにイチゴの生ジュースがメニューにありますが、瓶詰されたイチゴジュースはめったにお目にかかれません。イチゴは水分が少ないため、ジュースにするのに手間がかかるなど、製造上、コスト面ともに課題が多く、大手メーカーもイチゴジュースの製品化は、二の足を踏んでいるのが現状のようです。

「果実栽培では、何を作っても、生食用として出荷できない部分がでてきます。リンゴなんかは相当量がジュースとして製品化されますが、イチゴの場合はジャムがほとんどで、優秀な地場産品の需要喚起の意味においても、イチゴジュース、ピューレの製造を目指したいですね」

田所さんは、新工場で製造する商品の多角化を目指すとともに、新たに造成したブドウ畑では、これまで扱わなかった生食用の品種を栽培したり、リンゴなどを植えた果樹園として整備することで、観光農園としても生かしたいと、目標を話します。

自社の事業再建への取り組みを、町おこし、山元町への貢献につなげていくことこそが、田所さんの考える「復興への挑戦」の未来像でもあるようです。


亘理郡山元町、亘理町のイチゴは、特産品として知られていることは確かでしょうが、全国的な認知度は、福島のモモや、山形のサクランボなどには及ばないでしょう。

田所食品のイチゴジュース製品化が実現すれば、大きな話題を集めることは間違いありません。

瓶詰めされたおいしいイチゴジュースがあったとするなら、朝食にイチゴを欠かさない服部先生だけではなく、冷蔵庫にジュースをキープする全国のイチゴ愛好家は大勢いるはずです。

栄養素満載で、独特の味わいがクセになる山ブドウジュースと、評価の高い地場産イチゴを使用する、全国的にも希少なイチゴジュース。


田所さんの「復興への挑戦」は、大きな未来を見据えています。


田所食品株式会社
宮城県亘理郡山元町山寺字高地7
0223-37-0439

(取材日 平成25年6月27日)