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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2013年2月28日木曜日

2013年2月28日木曜日18:16
皆さん、こんにちは。スーサンです。


「大丈夫なのかと思いました。塩水をかぶった田んぼのコメで造って、おいしい酒ができるのかと思いました」

仙台市若林区今泉地内で農業を営む大友一吉さん(67)は、酒米として提供を打診された時に、最初にこう感じたのだそうです。しかし、心配は結局、取り越し苦労に終わります。

大友さんが所有する田んぼは約8ha。海岸からは約4㎞離れた、仙台東部道路の西側に広がっています。このうち、東日本大震災による津波で浸水したのは7割に上りました。

いち早く除塩に取り組むなど、大友さんの農業復
興に対する前向きな姿勢が高く評価されています
無事生育した「ひとめぼれ」を刈り取る大友さん(写真提供:中勇酒造店)
塩分は水稲の成長を阻みます。大友さんは震災直後からいち早く、除塩を試みました。

田んぼに水を引いて土壌をかきまぜ、水を抜くという田植え前の「代かき」を繰り返すことで、塩分濃度を下げるというものでした。トラクターによる作業とはいえ、労力は例年の3倍以上になったといいます。また、栽培中は常に水を切らすことがないよう、心掛けたといいます。

用水路の破損が少なかったことや、天候にも恵まれたことが幸いし、無事、平成23年産米の「ひとめぼれ」は収穫されました。

大友さんの除塩は翌年も続き、平成24年産米も見事に実を結びます。そして、依頼主によって極上の純米酒に生まれ変わり、現在、その新酒販売が始まっています。

「天賞 特別純米 しぼりたて生原酒」がそれです。


復興を象徴する「天賞 特別純米 しぼりたて生原酒」。
720ml(写真)は1,300円(税別)、1800mlは2,500円(同)です
依頼主である「中勇(なかゆう)酒造店」は、県北西部に位置し山形県境と接する加美町の南町にあります。仙台市中心部からは車で1時間ほどです。旧街道沿いにあるこの地域は、平成15年に他の2町と合併する以前の、「中新田(なかにいだ)町」と呼んだ方が通りはよさそうです。

日本酒好きなら、ピンと来たのかもしれません。なぜ、銘柄が「天賞」なのか――。少し補足が必要でしょう。

中勇酒造店は明治39年(1906)に創業しました。主要銘柄は、戦前から続く「鳴瀬川」に加え、吟醸・純米に限定し30数年来人気を博している「夢幻」です。

実は、本来は消えたはずの他の銘柄を同社は支えているのです。

その1つ「真鶴」は、同じ加美町にあり、創業が寛政元年(1789)という「田中酒造店」の銘柄です。先代社長が亡くなり、後継者がいないことから、中勇酒造店が平成21年2月に経営を全面的に引き受けています。

そして、「天賞」です。

この銘柄はもともと、文化元年(1804年)に創業した「天賞酒造」(仙台市)を前身とする、「まるや天賞」(川崎町)のものでした。東日本大震災も一因となり、平成23年5月、中勇酒造店が「獨眼龍政宗」の銘柄とともに商標権を譲り受けます。天賞からは2人を雇用し、社内に新たに天賞事業部を設けることになりました。


話を伺うことができたのは、中勇酒造店の4代目である中島信也社長(56)です。

中島社長は、被災地への一過性でない復興支援を望んでいます
「同じ地域の酒蔵が無くなったから、うちの酒が売れるのかというと、決してそうではありません。蔵元にはそれぞれの味があり、その味を守っていきたいと考えました。大手などに『真鶴』が買収されて、味が変わっていくことが心配でした。引き受ける条件は、人も醸造工程もそのままというものでした」

「『天賞』については、200年以上続くブランドを守りたいという申し出があり、蔵元として気持ちが痛いほど分かりました。すでに『真鶴』の経営を見ていましたし、売却によって工場が無くなるということでしたので、うちで造るほかはないなとなったのです」


中勇酒造の敷地内。生産の実に9割が高級酒といいますが、
精米を含め、高度な醸造技術が求められています
さて、中島社長は復興の酒について、次のように話しています。

「被災地に何か具体的な支援ができないものか、と考えていました。そうした時に、天賞事業部から、『津波で壊滅した仙台市沿岸部でコメが作られているが、それを利用してみたい』と、提案があったのです。実際に農協や農家に聞いてみると、収穫は可能だということでした。それでは酒造りをしてみよう、ということになったのです」

提案は平成23年の夏でした。除塩を始めた被災水田での水稲は、予想を超える順調な生育であると報じられていました。それは、復興へ向けて希望を見いだせる、文字通りの素材に映ったといいます。同社ではJA仙台に対して、酒造用としてコメを提供してもらえるよう依頼し、最終的に冒頭の大友さんに行き着いたようです。

「市からは作付けしていいと言われていましたが、周りではだれも作りませんでした。稲は根付かずに枯れてしまうといった話が、ささやかれていました。市もデータも取りたいというので、とにかく栽培を続けてみようということになりました」(大友さん)

店頭ではこのタグによって、復興をアピールします
中島社長は話を続けます。

「買い取った数量は2.5tと少なく、支援というのもおこまがしいのですが、復興の象徴として日本酒を製造したいという思いがありました。ただ、復興には時間がかかるので、一度きりの支援に終わらせず、取れたコメは使い続けますとお伝えしました。田んぼの変化や味の変化も物語として感じてもらうとともに、震災を忘れないでほしいという願いをこめています」

2年目の注文は7.5tに増えました。現在、「天賞」のブランドにより、精米歩合が60%以下の「特別純米」というくくりで、加熱処理(火入れ)をしない「しぼりたて生原酒」を数量限定で発売しています。

昨年の「天賞 除塩田栽培米 復興の酒」という商品名は一新。瓶のラベルには、「復興たんぼ栽培米仕込み」と添え書きがあるだけです。復興を着実に支えていく姿勢を表したものと言えそうです。生産者を紹介することは酒類業界では珍しいようですが、瓶の首に付ける広告用タグに大友さんの姿が映り込んでいました。

この生原酒については、一定期間が経過した後は加熱処理をして、「特別純米 天賞」として販売するとのこと。このほか、春過ぎには、定番商品である「本醸造 獨眼龍政宗」が、大友さんのコメを使って仕込んだ新酒に切り替わる予定です。

仕込み用のタンク。〝復興酒〟造りで難しいのは、通常の酒
米に比べると水分が多い「ひとめぼれ」の麹づくりといいます



中勇酒造店は明治39年の創業で、旧中新田町の目抜き通りにあります
中島社長は東日本大震災について、復興の伝わり方、支援の在り方を問います。

「震災後しばらくは、全国から日本酒が欲しいと注文が舞い込みました。しかし、最近はすっかり落ち着いています。支援の一過性といったものが気になっているのです。たとえば、被災者の住宅がようやくこれから建設されるといった段階です。もっと、被災地の現状を発信していかなければと感じています。造り酒屋の業界でも、内陸部に震災で全壊した会社があり、最近になって出荷を始めています」

大友さんが除塩を試みた田んぼは、1年目は一部に限定されましたが、2年目は全域を網羅することができました。今後期待されるのは、細部にわたる土壌の改良です。

「最初は、これから4、5年は稲作は無理だろうと考えていました。しかし、支援をいただき、おいしい酒造りに貢献することができました。また、農業技術の向上にも役に立ったのではと思っています。これから、ますます良いコメをつくっていきたい」(大友さん)

同社では地域づくりを積極的に行っていて、伝統文化である日
本酒製造への理解を深めてもらっています。
蔵を一般開放した今年2月11日の第10回「蔵開き」で
肝心の味は? と聞かれそうです。

仙台市内の百貨店で開かれた試飲会では、「柔らかくて、すっきりしている」「辛口だが、生なのでコメの甘みを感じる」「味のバランスが取れている」といった評価になったようです。本ブログとしては、「フルーティーな香りがする」と付け加えさせてもらいたいと思います。

確かな米作りが確かな酒造りとつながり、復興へ向けて確かな歩みを始めていることを実感させる取材となりました。


株式会社「中勇酒造店」
〒981‐4241加美郡加美町南町166
TEL0229(63)2018
FAX0229(63)2089
nakayu@mugen-kuramoto.co.jp


(取材日 平成25年2月14日)