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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2012年12月14日金曜日

2012年12月14日金曜日14:32
こんにちは。けいこです。

石巻市の北東部にある、雄勝町。
太平洋に面した美しい浜が連なる漁業が盛んな町ですが、ご存じの通り、この町も震災によって大きな被害を受けました。
津波によって町の約8割が被災。
町を作り上げてきた歴史、人々の心のよりどころにもなっていた伝統もまた、大きな被害を受けました。

昨年5月の雄勝の様子

皆さんは、雄勝町に古くから伝わる「雄勝法印神楽」をご存じでしょうか。

600年もの間受け継がれてきた、国の重要無形民俗文化財に指定されている神楽です。
古事記や日本書紀の神話物語が基となった、28の舞があります。
町の祭典には欠かせないものです。

雄勝町にある15の浜には、それぞれの浜に1つずつ神社があり、祭りの際などはその神社で舞が披露されていました。
しかし、津波によって神社そのものや、神社に納められていた神楽の道具や衣装も流されてしまいました。


(写真提供:大宮司勇

(写真提供:大宮司勇
(写真提供:大宮司勇)

















15の浜の個性を1つにまとめるような、地域に根付いた大事な伝統文化。
この伝統を見つめ、雄勝法印神楽の新しい舞台の姿を考えた方がいます。

東北大学工学部工学研究科の大学院修士1年、今泉絵里花さんです。

彼女が震災後に経験した雄勝での活動と、そこから生まれた雄勝法印神楽に関する作品について紹介したいと思います。

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今泉さんは現在、建築を学ぶ大学院生。
震災直後の昨年5月、「雄勝の固有性を調査しながら今後の将来像を提案する」、という大学の設計課題のため、初めて雄勝町に足を踏み入れます。

調査の方法は、雄勝の町を形作っていたあらゆることを、足を使いながら1つ1つの特徴を野帳図に書き込んでいくというもの。
週に1、2回のペースで雄勝に通い、チームに分かれ担当する浜の調査を進めたそうです。
以前の雄勝の町の姿を振り返って見つめ直すことで、新しい街の姿を創造していきました。

__この家にはスレートの屋根があった。
__ここからは、椅子に座ってゆっくり眺めたくなるほどの奇麗な海が見えた。

住民の方たちは調査をする今泉さんたちに「頑張ってるね」という声を掛け、差し入れをしてくれることもあったそうです。
「私たちより大変な思いをしているのに、いつも気遣いをしてくれました。雄勝の人たちは本当に優しい人たちばかりです」

最終的にまとめられた案は、雄勝の復興計画の一部として取り入れられたといいます。
石巻市と包括協定を結ぶ東北大学は、現在も石巻市街地や雄勝などの復興計画に携わっています。

がれきが残る中、それぞれの浜の特徴を調べ
野帳図に書き込んでいきます。







野帳図を見ながら、当時の様子を説明してくれた今泉さん。
手描きの診断図からは、学生たちの努力の跡が伺えます。

大学で建築を学ぶ学生の中には、「卒業設計」という最終制作課題があります。
教員から与えられた課題に沿ったものではなく、取り上げるテーマや敷地、規模など自身が自由に決めて制作するもので、学生にとっては大学4年間の集大成となるものです。

私が雄勝でできることは何だろう。
奇抜なデザインではなく、シンプルで儚く、でも強さのあるもの。
雄勝の地には、そんな作品を作りたい。

そんな思いの中、今泉さんも卒業設計の制作をはじめます。

「高台移転をした後の町の姿の提案や、観光の拠点となるような建物を作ろうかと考えたこともありました。でも、やっぱり雄勝の人の気持ちを1つにまとめる雄勝法印神楽で何かやりたかったんです。町の人を生き生きとさせるこの神楽は本当にすごいんですよ。制作中は本当につらかったです…。この土地の上に舞台を置くことが本当に正しいのか。これは本当に雄勝にとって意味のあることなのか。そんなことを考えたら手が動かなくなって作業が進まないこともありました」


学校で寝泊まりし、昼夜通しての模型や図面制作の日々が続きます。
神楽師の方へ相談に行ったこともあったとか。
そして完成したのが、「神々の遊舞(あそび)」という作品です。

雄勝法印神楽の発祥の地である雄勝町大浜の、山から海へ緩やかに続く斜面に一本の道を通し、神楽の舞台と人々が集まる場を提案する作品です。
人々が思い思いに神楽を楽しみながら、賑やかに集う様子が伝わってきます。

「神々の遊舞」の模型写真。
神楽の舞台を中心に人々が集まる、公共性のある作品です。

またこの作品は今後いつ来るかわからない津波に備え、水の流れにあらがうことのない「流れ橋」を参考にした作りになっています。
津波が来た時には垂直橋と板が流れるような仕組みです。
そして橋脚に残る津波の跡は、その記憶を後世まで伝えます。
(※流れ橋…固定されていない橋桁が洪水の際に流れてしまうよう事前に想定した橋のこと。残った橋脚の上に新しく板を架けることで簡単に復旧できる)


「大浜というところは、山から海へゆるい傾斜を持ってまっすぐに続いているんです。きっと人々が歩きたくなる場所だと思いました。大浜という土地そのものが大きな建築であることを感じてほしいと思ってこの形になりました」


雄勝の町を調べ尽くした経験があるからこそ生まれたこの作品。
もともと鎮魂の意味を持つこの神楽が、津波で何もなくなってしまった場で人々の気持ちを癒し、温めるような空間になっていると思いました。

神楽の仮面や太鼓、大漁旗まで丁寧に表現されています。

実はこの作品、毎年3月にせんだいメディアテークで行われている「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」で日本一に輝きました。
卒業設計日本一決定戦は、「卒業設計」の作品が全国から集められ、全応募の中から公開プレゼンテーションを経て、日本一、日本二、日本三、奨励賞を決めるという大きな大会です。
毎年数百にも上る応募があり、海外からも注目されています。

建築デザインや設計を学ぶ学生は誰もが目指す大きな舞台。
今泉さんも、この大会に出ることをずっと夢見ていたそうです。

公開プレゼンは川内萩ホールにて行われました。
(画像はせんだいメディアテークでの中継の時のもの)

今泉さんの得票は右から4つ目。
全審査員から票が入り、この後日本一が決まりました。













「大学内での評価もそんなにいいものではなかったし、自分の作品が選ばれることはないだろうな…と思っていました。プレゼンテーションは本当に緊張してしまって…。何を言ったかもほとんど覚えていません。日本一に決まった時にはただただ感無量で、泣きそうになるのをこらえるのに必死でした。今まで雄勝で積み重ねてきた活動は間違ってなかったんだな、と思います。雄勝の人たちに感謝の気持ちでいっぱいです」

雄勝に住む方も、受賞の知らせを聞きとても喜んでくれたと言います。
東京で行われた作品の展示に、雄勝から足を運んだ方もいたそうです。


「ここには楽しげな風景と未来があるんです。今後もまた雄勝法印神楽が何百年も続くような空間が生まれると思います。それが審査員にも会場にいたみんなにも伝わったのがとても嬉しかったです」
雄勝は私の原点
地域、その場所のことを考えてこれからも精進あるのみ

今後は、海外への留学を考えているという今泉さん。
コンペにもどんどん作品を出展し、もっともっとセンスとスキルを磨きたいと話してくれました。

「きっと、私がこれからどんな道を進むとしても、雄勝で学んだことを振り返って何度も思い出すんだろうなと思います。雄勝は私の原点です」

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今泉さんを取材して強く感じたこと。
それは、彼女は本当に“人が大好きなんだ”ということです。

そこに住む人たちを思い、その気持ちに寄り添いながら悩みに悩んでできた作品は、震災後の雄勝の町そのものと、雄勝に住む人たちへの深い感謝や愛情の表れと言えるのではないでしょうか。

そして、今泉さんが被害の大きさにたじろぎながらも、それでも何かできないかと震災と真剣に向き合った形でもあるのだと思いました。

(※雄勝での調査写真提供:今泉絵里花さん)


(取材日 平成24年12月2日)