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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2012年11月1日木曜日

2012年11月1日木曜日19:33
皆さん、こんにちは。スーサンです。
実りの季節たけなわですが、震災後の農業が気になるところです。


――鮮やかな緑色のホウレンソウ、ミズナ、チンゲンサイなどに交じって、最近洋食で人気の赤みを帯びたレタス類も見受けられます。工場を模しているのか、ラインと呼ばれる幅90㎝の〝畑のうね〟が、幾重にも長く延びている様は壮観です。


今年6月、名取市植松の塩害を受けた水田に2000平方mのハウス3棟が建設され、本格的な葉物野菜の水耕栽培が始まっています。土で育てる場合より成長が1.5倍から2倍速く、年間に78回は収穫が可能といい、品質と納期で安定供給が見込まれているのです。おまけに、完全無農薬による栽培です。

長く延びるラインは1つのハウス内に30あります
手掛けているのは「さんいちファーム」で、震災で被災した農家の3人が昨年11月に設立しました。経営感覚がより問われる株式会社という組織形態を採り、震災後の農業再生で注目株となっています。


水耕栽培では、水に窒素、リン酸、カリウムなどの成分を溶け込ませた養液が土耕栽培の土に相当し、植物を生育させます。先ほどのラインには養液がくまなく循環していて、苗は日ごとに身の丈を伸ばしていきます。現在は、栽培の具合や売れ筋の見極めが続いていて、栽培種が10を超えています。数が多いほど管理コストは掛かるため、将来的には56種に絞る予定といいます。


「技術の一番の特徴は、年間を通じて、どの箇所でも水温が21.5度に保たれることです」と、瀬戸誠一社長(63)。
ラインに植えられる数が決まっているので、生産量の計算が容易です
水温は常に21.5度に保たれています
育苗床です
葉物野菜の根がその一定の温度で養液を吸収することが、最適な生育環境なのだそうです。ハウス室内には冷暖房設備が一切なく、独自のシステムで水温管理が施されています。水そのものは雨水を再利用し、地下タンクにいったん貯蔵して、ろ過して使用しています。ラインに1度水を引けば、1年半は交換不要といいます。


販売の方に目を向けると、関西の居酒屋チェーンや東京のホテル、地元スーパー、インターネット通販の個人に対して、ルートが築かれてきました。やはり、季節にとらわれない常時の供給が魅力のようです。今後は、11月末から東京の飲食業者向けなどに出荷が開始される見通しで、最終的には全3棟でのフル稼働が期待されているのです。今年度の売上高は78000万円を目指しています。


兼業農家だった瀬戸社長は、仙台市宮城野区の田畑や自宅が津波によって流されました。起業のきっかけは、震災地で水耕栽培を勧めていた東京の環境コンサルティング会社、株式会社リサイクルワンの提案を受け入れたことでした。


「被災に甘んじている性分ではなく、自分の田畑の復旧を待っていては時間がかかり過ぎて、労働意欲がなくなるのが嫌でした。それから、30年前に水耕栽培を調査、研究したことが役立ちました。当時からその有望性を感じていました」


大手運送会社を退職後、知り合いの小規模な運送会社を、経理から運転まで幅広い経験を元に手伝っていました。その会社は津波で無くなります。

瀬戸社長は前進を続けています
  
ハードルの1つとなった建設資金は約35千万円。そのうち8割を、国の東日本大震災農業生産対策交付金と県の農業生産復旧緊急対策事業補助金で充当しました。民間の復興支援ファンドを合わせて活用。それでも、銀行からの借入額は8000万円となっていますが、事業意欲を阻むものとはなっていないようです。リサイクル社からは、栽培技術や販路の見通しのほかに、補助金申請、許認可に関わる情報を豊富に提供されたといいます。


「一般的なビニールハウスの中でも、われわれのラインを持つことはできると思います。連作が可能なのです。われわれは普通の農家です。普通の農家に安定した収入をもたらすことができれば」


農業の規模の拡大化は決して特殊なものでないと見ています。そして、その先を見据えています。新しい農業は生産だけでなく、加工、流通、販売にも進出することで付加価値を得られると想定されています。いわゆる6次産業化と言われているものです。何より収益性を向上させることが、次世代に求められています。
塩害の水田の上に建つハウス3棟

「工場に近い」と言われることが多い同社のハウス室内。作業は、種まき、育苗、定植といったものに加え、栄養素の比率、アルカリ・酸性度を測る検査があります。「役員が一番の作業員かな」と明るく笑う瀬戸社長ですが、従業員はパートを含め7人が採用されています。非農業出身者、20代の若者もいます。若い人たちが農業に就労することの必要性を強く感じているようです。


「地域にお世話になったわれわれは、地域とともに歩んでいきたい」として、身体障害者や知的障害者の実習生の受け入れの具体的な検討が始まっています。作業は腰の高さでできるため、しゃがみなどの動作が不要で、肉体的な負担は軽減されるといいます。


農業に希望に与える同社の事業を、今後も見守っていきたいものです。


(取材日 平成241029日)