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宮城県復興応援ブログ ココロプレス

「ココロプレス」では、全国からいただいたご支援への感謝と東日本大震災の風化防止のため、宮城の復興の様子や地域の取り組みを随時発信しています。 ぜひご覧ください。

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写真 「19年連続 生鮮カツオ水揚げ日本一」に向けて、気仙沼では生鮮カツオ水揚げが順調です。「今年はとりわけ脂が乗っている」と関係者の表情もほころんでいます。
2015.7 ~宮城県震災復興推進課~
2012年3月7日水曜日

2012年3月7日水曜日19:00

寒さ 寒さも 春分まで。なんて、龍庵です。

 栗原市の沢辺の町外れに、茶房・古民芸「おもて」という風情のあるこじんまりとしたお店があります。気になりながら、入ったことがなかったので、立ち寄ってみました。






 木のドアを開けて「こんにちは」と入っていくと、誰もいない。さらに奥に入っていくとソファにオジサンが昼寝中。
「ここ喫茶店ですよね?」
「誰だ?」
お店に入って「誰だ?」と言われたのは初めてだ。あーたね。
「あー、寝ぼけていた」とオジサン。
うーん、面白いお店だ。
「たしか昔、この辺に病院がありましたよね」
「ここだよ。うちの親父がやっていた。立て替えたんだ」

マスターの安部一也さん
 そのおじいちゃん先生は子供の気持ちがわかるやさしい先生だった。ぼくも小さいときは風邪をひいたりするとよく通ったもの。痛い注射の後には、決まって「大きくなったら馬を買ってやるからな」とか「大きくなったら刀を買ってやるからな」とか言われて、あやされた。言葉の使い方を知っているだけでも名医ですね。目の前にいるその御子息のマスターに、不思議な懐かしさを感じました。

マスターの安部一也さんはそんな名医のもとで自由奔放に育てられ、医大を横に卒業して、3年間半ほど世界一周の放浪へ。40年以上前なので、「地球を歩く」のガイドブックもない時代。元祖バックパッカーですね。帰国して郷里に戻り、十数年間、高校の数学の先生として教鞭をとり、退職してこのお店をはじめて30年。やさしくて厳しくて面白い先生として、生徒たちにはきっと人気があったでしょうね。

 
古民家とロッジを合わせたような店内には、金成の大久保焼の陶器類や、磁器、アンティーク・ランプ、アンティーク時計なども展示販売されています。

センスのいい食器が並ぶ
アンティーク・ランプは世界各国のもの。
震災当時のお話をお聞きすると、「1回目で商品はほとんどやられたね。グチャグチャに。物の壊れ方が凄かったな。生きていればいいやね。命まで失った人が多いから」

最初の地震で。
すぐに復旧に取りかかって、やっと半分ぐらい整ってきたら、2回目でまたほとんど壊れてしまった。商売できるような状態に戻るのに半年ぐらいかかったという。商品の90%は仕入れ先などから補充がきく。商品自体は、古美術商による骨董会が古川や一関、八戸などで開催されるので参加して仕入れて、既製品ではないオリジナルのアンティーク・ランプやアンティーク時計は、毎日ネットなどからも部品を探し、自分でつくり直しているという。


二度目の地震で。












「アンティーク・ランプが3・40個残ったので、無償で配ったよ。持っている物すべて。そういう時はお金は取れないでしょ、常識的に。アラジンなどのストーブもあげたので、残っているのはこれひとつだけ。でも、灯油やガソリンのカタチで返ってきましたよ。みんなに助けられたね。隣近所とはよく物々交換もしましたね」貴重な品をプレゼントしながらも、助けられたことを強調する安部さん。情けは人のためならず、ですね。

店舗自体は、ほとんど壊れなかったが、母屋はかなりの被害を受けて、大変だったようです。安部さん宅では普段からご飯を釜で炊いているので、プロパンだから問題なく炊けたという。自家発電機も持っていたけど、周りに遠慮して控えた。

ランプの使い方などをご教授いただいて、この店より自分の居間の方が落ち着くということで、特別にめったに人を入れないそちらで、石臼で自ら引いてくださったお抹茶を頂きました。

「白洲正子さんが好みそうな物がありますね」と言うと、
「あー、あのおばちゃん、数回ここに来ているよ」との返答。
ええー!!それもおばちゃん呼ばわりだし。あの白洲次郎の奥さんで、日本の骨董・工芸・伝統芸術の評論家としては、第一人者だった方が!日本を代表する名工や芸術家が教えを請うた人なんですよね。
「“おばちゃん、変わってるね”、というと、“安部さんからは言われたくないわ”と言われたよ(笑)」
「東北に来ると一関で降りて、ぼくが毎回、車で迎えに行ったよ」
「そ、そうなんですか」

気に入った骨董を見つけるとストレートに
「これいくら」と聞いてきたという。
「15万円」
「ずいぶん、欲張りね」
「20万円」
「じゃあ、15万円でいいわ」
そんなやりとりだったという。売らなかった骨董もいくつか拝見させていただきました。

白洲正子さんにお茶を出すと「安部さんのお茶は、上から下目で同じ味だ」と言われたという。最高の褒め言葉でしょうね。裏表のないまっすぐな人・・・

歌枕に西行が憧れて東北を旅し、西行に憧れた芭蕉が同じ道をたどって「おくのほそ道」が生まれた。白洲正子さんはその西行の世界をも蘇らせた見識眼の持ち主。やはり宮城の栗原の地にも何度も足を延ばされていたんですね。

「復興」にもハードとソフトの両輪があると思います。ハードは社会インフラや建築物などの物質的側面。ソフトはネットワークのシステム構築からコミュニティの形成、人間のメンタルな側面まで。うつろいやすい美をコアとする芸術や文化は、そのソフトに咲く花。その花はつまるところ、個人の人間に由来する。多様性と多次元性がある復興がこれから求められてくることでしょう。ちょっと余談のような、本論のような。お能のように境界線がない話になってしまいましたが、いかがお過ごしのことでしょうか。

龍庵拝

     茶房・古民芸「おもて」 (定休日・木曜)
宮城県栗原市金成沢辺町4
TEL 0228-42-1038

(平成24年3月7日)